というわけで俺は今、橋の上に立っている。
などと言うと、まるで何事かに悩み苦しむ人が、
わたしはいっそここから飛び込んでしまったほうがいいのかも知らん、
などと思いつつ川面を見つめている様子を想像してしまいがちだが、
もちろん俺に死ぬつもりなどない。
それがかつてかすかに存在した頃、
すなわち、自分に思慮などというものがあり、それによって自分の人生を
どうにかできると思い込んでいた頃、
とある建物の手すりの上に俺の姿はあった。
所は21階建てマンションの17階、売り出し中の部屋のベランダだった。
そんなところに足を、そして体全体を乗せてしまうまでの様々なる過程を語りだすと
きりがない。とにかく俺は勘違いしていたのだ。
こんなろくな人生を辿れない人間にも脳みそというものがあり、
努力の一つもできない人間にもまっとうに生きる権利というものがあるのだ、と。
なんつ勘違い。
そんな勘違いが原因で死ねるほど、俺には根性はなかった。
から、いまこんな吐露をとろとろ、と。あははは。
というわけだから今、俺はただ偶然の一種でたまたま橋の上にいるに過ぎない。
ああ、いい風だ。春だ春だ。五月の乾いた風だ。
(つびこんてにゅーど)