荒木ガメラの部屋にはパソコンなんてものはない。
画面がついた物と言ったら、一万なんぼで買った激安液晶テレビがあるだけだ。
一万なんぼと言ったってバカにはできない。
きっちり32インチあるのだから。
録画もできりゃあな、とは思うが録画用HDを買う金など荒木ガメラにはない。
そりゃあ今時一万もしないで買えるHDだから買おうと思えば買えないことはまったくない。
ただそれ以前に金を使うべき方向性が、彼の場合そっちに向かわないだけのことだ。
つまり、録画用HDよりもギターの弦。
そんな彼だから連続テレビドラマなんてのとはほとんど縁がない。
必要ともしていない。
でも買ってそこにあるくらいだからスイッチぐらいは入れる。
ある日、仕事の現地調査で県北の山村から遅く帰った夜、なにげに
彼はテレビのリモコンの赤いボタンを押した。
数秒後に電機メーカーのロゴが画面に、そしてその顔はボーっと彼の目に前に現れた。
止まってる、と荒木ガメラは思った。
顔が止まってる。
なのに心が動いている。
それがビンビン伝わってくる。
ボッとしてるのに、ピリッとしてる顔。
女の子だった。
居酒屋でバイトをしている女の子が、マンションを買おうとしている話だった。
コンビニで買ってきたハンバーグ弁当は冷め始めていた。
缶ビール(正確には新ジャンルとか言うやつ)と一緒に、そいつを腹に収めながら、
荒木ガメラは表情に乏しい、なのに気持ちの動きが息苦しいまでに伝わってくる
その女の子のドラマを見つめた。
あれみたいだな、と荒木ガメラは思った。
「きのうのカレー、あしたのパン」とか「レンタネコ」とか「かもめ食堂」とか。
なっちゃんに教えてあげよう。まだ8回のうちの3回だし。
ソーヤは、なんとなく、もう見てる気がする。