おっと、ここは左だっけね、なんて50メートル手前からとっくにわかってたことを
頭ん中でわざとらしく口ずさみ、わたしは左へハンドルを切ったのであったが、
うむ、自転車。チャリさんがあっち、右視界のはしからすっ飛んでくる。
まあ、すぐに通り過ぎてくれるだろう、とハンドルをゆったり握り直しつつ、
左は? と、ぐいと左に首をひねれば、はい、ばあちゃんの登場。
とか思ってたら今度はあっちからBaby Carの参上。キンキン頭のヤンママが。
そしてさらには……と、今日も横断歩道は大盛況なのだが、しかし、
お前はどこから!?
右からやって来るサラリーマンコンビの姿の前に突然、車。
右折車である。わたし左折車の前に、何やら神妙に語り合いつつやってくる
サラリーマンズとわたしのあいだに右折車。
すなわち左折車たるわたしより前にこの交差点を通過しようっつー魂胆。
左折車優先の理由をまったく解していない足らん坊とは、
お前のこったぜ。
わたしの視界に突然割り込んできたことで、
左折車優先の理由は歴然。
すなわち、わたしの視界にはあんたの存在はまったくなかったのだから。
わたしには、
横断歩道上の人物たちの完全なる通過を見届ける「義務」があるのである。
そういう自動車運転者の「義務」があるのである。
右耳の後ろのほうから、いいか、もう一回言うぞ、
右耳の後ろからやってくるあんたなんぞ、俺にどうやって見ろってんだ?
そりゃあ、首をぐいと回せばあんたの姿は認められただろう、
がしかし、その時、右耳後ろからやってくるあんたに気を取られたわたしは
完全なる横断歩道上の方々の庇護者となれるだろうか。
もしかしたら最後の最後、歩行者信号がピコピコ言い始めた時に突っ込んで
きたほっそいタイヤのバイシクルを見落としたりしてたかもしんないのだ。
さあ、突然登場の右折車くんよ、君にもわかっただろう。
君には確かにすべてが見えていた。少なくともわたしよりは広い視界で
横断歩道上の様子が見えていた。だから突っ込んでこれたのだ。
でも俺にはあんたは見えてなかった。
全然見えてなかったんだ。だって横断歩道上が今日も大盛況だったから。
さあ、もう金輪際、左折しようとしているわたしたちの前には現れないでくれ。
わかったよな。