なんつうか、昔、20数年も前、僕はタクシーのお客さんだった。
つうか今でもお客さんになろうと思えばなれるんだが、
現在、主にやってるのは運転手のほうなんで、
お客さんだった時代は昔のこととする。
で、そんな時代、我々にとってけっこう大きな「タクシー問題」に、
「一万円札でタクシー代を払おうとすんじゃねえ!」
という問題があった。
別に誰に言われたことでもない。
ただなんとなく、いつのまにか、そういう命題が常識として、
肉体と意識の中にしみついていたのである。
だのに今は。
なんだか消えたのね。
「一万円札だけ持ってタクシーに乗るな」っつー常識が。
知らんうちに勝手に解消されてんのね。
けっこう大きな「タクシー問題」。
レジスター載せて走ってるわけじゃねんだからさあ。
んなことしたらたちまちタクシー強盗の餌食だべ。
年末に限らず、年中がタクシー受難の季節になっぺした。
そごらじゅうにタクシーの運ちゃんの死体が累々と積まれるごとになっぺさ。
だがらね、タクシーはレジスター載せで走んねの。
んでね、てえげえの運転手は10枚ほどの千円札だけポケットさ入れで、会社を出発すんのっしゃ。
そごにきて朝一発目にワンメーターに万札出さってみらい。
まあ、しゃあねえがら9千なんぼ釣銭出すっちゃ。
あーあ、もう千円札一枚しかねえよわ。商売なんてできねっちゃ。
しゃあねえがら買いたぐもねえ、タバコ買ってみたりガム買ってみたり、
すっとコンビニのあんちゃんもあ~んまりいい顔しねえよ、マジで。
されだどあるもんね、若えあんちゃんに、あーあ、タクシーの運ちゃんときたら
朝っぱらからこれだかんね、なんて顔されたこと。忘れもしねえ、七十一のXX店だげどね。
今は万札出されたくらいでグダグダいう運転手は減ってるさ、確かに。
でも本音は、
参ったニャ……
なのっしゃ。
消えた常識だげっとも、意味や理由はあったんだよ、ぼーや。
タクシー運転手の死体が累々と積まれる、
そんな光景を生まないための、そいづは常識だったのっしゃ。
ほんでまず、またのご乗車、よろしくね。