BABY #1
バッターボックスに立って、星凛午の頭に突然鳴り響いたのは翠花の声だった。
「目ん玉ひんむいて球の芯まで見ろー!」
うるせえなあ、わかってるって!凛午は唇をとんがらせてピッチャーを睨んだ。
バットはまっすぐおてんとさんに向けられ、ぴたっと固定されている。
背骨から頭を通ってバットの先まで、凛午は一本の直線を感じた。
打てる。どんな球が来ても。
回はもう七回の表だ。これが最後のチャンスかもしれない。バッターボックスに立つまでそんなことを考えていたことが遠い昔のように感じられる。ゆったりと凛午は重くて大きな石になったように思えた。
翠花ねえちゃん、今、あんたのとこまで飛ばすぜ。
じんわり熱いものが体を包んだ。
アドレナリン?知らねえ。でも気持ちいい。
ピッチャーはポーカーフェイスで振りかぶった。
振りかぶった?ランナー二人背負って開き直ってやがる。
「目ん玉ひんむけー!球の芯まで見ろー!」
だからわかってるって。もう体ごとバットの芯になってんだからよ。大丈夫だ。
そんでストレートが来るのももうわかってる。
芯で芯をとらえてやるさ。
「でかいの打とうなんて思うなよ、バカやろー!芯だけ狙えー!」
翠花ねえちゃん……翠花……
ほれストレートだ!胸元えぐってきやがった!上等だ!
星 政徳
星凛午の父親 写植屋 元バンド青年(ドラマー) Beatlesのファン 温和
左利きのリンゴ・スターの叩き方にいつも感動、(自分は右利きでがっかり)、
親子でバンドをしたいという夢→幼い凛午にミニギターを買ってやる。
(イメージ……利重 剛)
星 凛午
左利きだったが、ショートを守りたくて小学校時代に右手で投げる「とっくん」を自らに課す。
父親から買ってもらったギターを野球中継を見ながら振り回す。
幼稚園時代から「干しリンゴ!」とバカにされるが、「そんな食べ物ないやい!」と言い返す。
小学校一年の時、五年生に「生意気だぞ!」と言われ、「お前こそ生意気だ!」と言い返す。
父親のドラムスティックでティーバッティングをする
→内角に異常に強い
→HRにこそならないが、バットコントロールが自由自在。
外角はすべてホームランに出来ると信じて疑わない。
「よっしゃもらった!」と、守りではしょっちゅうフィルダースチョイスをしてしまう。
身長 高校二年で173cmで止まってしまい、ちょっとガッカリ。
頑迷なほど頑固、思い込んだら真実一路、少々無神経、ごちゃごちゃした感情についていけない。
(イメージ……中年になったら岸谷五朗)
田丸翠花
凛午より3才年上、身長 高校一年で183cmになる。
ひょろひょろの文学少女っぽい外見だが、発言はストレート、臆さない。
小学校低学年の時、近所に引っ越してきた凛午を知り、「果物仲間!」と言って凛午と友達になろうとするが、凛午に「西瓜は果物じゃないよ!」と言われて悲しくなる。以来、異常に凛午に執着する。
凛午の無神経を真正面から糾弾する。
「ついてこれねえようなやつは友達じゃない!」とまで言い切る凛午に、「一人で死ね!」とまで言うが、
自分は最後までつきまとってやると決めている。
西瓜 果実は園芸分野では果菜(野菜)とされるが、
青果市場での取り扱いや、栄養学上の分類では果物あるいは果実と分類される。
結城太郎
政徳の中学時代の同級生、喫茶店「ラフ・ブルー」店主、妻と結婚五年目で死別
如月夏子
「ラフ・ブルー」のウェイトレス、東大法学部卒、盛岡出身
多々良丈史
政徳の中学時代の同級生、刑事。
最近刑事課から「刑事課分室」に回され、暇を持て余している。
☆異常に執着するやつら