すいません、長いです。
そこは街のど真ん中、五橋(いつつばし)。大通りから一本入った裏のちっこい交差点。
われ、右にウィンカーを出して、さあ、青、と思ったら50mばかり前方で大きく手を振ってる老婦人、つーか、ばんつぁん。しゃーねーな、と後続車両には、ウィンカーと違ってごめんね、で急遽直進。
「トランク、お願い」とOld Lady。「ぎっくり腰やっちゃって……すいませんね」
トランクに大小のバッグをつめこんで、さあ、「どちらまで……」
「牡鹿町の鮎川 までなんだけどぉ」
三陸自動車道が途中からタダになってるなんて、知らなかった。
高速を運転中、手のひらの筋を伸ばし始めた俺を見て、ご婦人、「コーヒーでも飲んで休憩しましょ」。
で、7Elevenの駐車場で一服。
やがて、右に石巻湾、左に万石浦、そしてサンファンバウティスタ号(支倉常長のノッた船)でお馴染み、サンファンパーク 。約400年前、欧州へのスタート地点となった月浦。
石巻過ぎたらすぐだんべ、なんて思ってたら大間違い。果てしないリアス道。
途中、鹿飛び出し注意 の標識。まあ、そんなこともあるんだろう、と他人事の俺。
石巻で14,000円だったメーターはいつの間にか23,000円を越えている。
あっちゃー、仙台空港に行くより走ってるんじゃん、石巻を出てから。
牡鹿半島、あなどるべからず。さすが東北の「鼻」です。けっこう高い鼻なのだ。
時刻は四時を回り、ふと横を見ると、あれ~、太陽が海に沈んでいく!太陽が、太平洋に!?
そうだったのだ。半島では西側が海だったりするのだ。太平洋側でも。
リアス式海岸の南端の牡鹿半島ならではの、山と海の、微妙なバランスが織り成す絶景の連続。
まったくもって、こんなところに暮らす人たち、裏山SEA!
裏山だと思ったらそこが海だったりなんかする牡鹿半島、女川。
「せっかくのご縁だからね、いい所、ご案内します」とおばあちゃん。「後からここに戻ってくるんだけどね」
と言ってからさらに前進を促し、着いたところは、
金華山の全景(!)が見下ろせる展望台。
水平線がかすむ太平洋に姿美しい、「神の宿る島」。
(↑なんか平べったいな。実際はもっと立体的に見えます)
金華山っつったら、「鹿うじゃうじゃの島」だった――きのうまで俺の頭の中では。
実際に上陸したら、ああやっぱり鹿うじゃうじゃだ、となるのかもしれない。
でも、この全景を、夕暮れ直前のうっすら霞みのかかり始めてる空の下で見たあとでは
きっとこのままの印象で島を捉えることができるんじゃないだろうか。
つまり、神の使いとしての鹿が棲む島、と。
頭を180度回転させるとそこには網地島と田代島。
「あれが猫で有名な網地島……」と言ったら、ばんつぁん、「猫は田代島」ときっぱり。
そだっけ?(そでした)
左に鹿の島、右に猫の島、というこの半島は鯨の見える半島。
人間は、「暮らさせてもらってる」って感じ。
さて、「ばあちゃんとドライブ」も26,490円もらってお終い。
運ちゃんは帰ります。同じ道を戻るのも味気ないので、半島のど真ん中を走る山道へ。
日はすっかり落ちた。山道に街灯なんてない。真っ暗。道はくねくね&登っては下り。そして、鹿。
初めは、「ん?人?」と思ったんだが、ライトを上向きにしたら、でかいケツ。
そしてやおら振り向く野生のまなざし。でかい角(つの)。おお。
正直、ビビッた。ひたすら、「おおおおおお……!」
夢にでも迷い込んだかのような非現実的世界の感触におののく。
もうスピードなんて出せるもんじゃない。カーブを曲がったすぐそこに、またいるかもしれないのだから。
するとやはり、いる。それも、彼ら、こっちが「もう出ないかな?」と思い始めた所で、出る。
もうジェットコースターに乗ってお化け屋敷走ってるようなもん。
うへー、あちゃー、きゃははは、ひとりで楽しんじゃいました。
(神の使いがいつの間にか、お化け扱いになってるっての)
途中でガスがあまり残ってないことに気づいて浜の道に戻って、後続車も現れだして、道路がいつもどおりの普通の「道路」に戻っちゃって、そうなった時、ちょっと寂しかった。