Mさん | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

夢を見た。


大学時代、俺は放送会(他の学校で言う放送部)のラジオドラマの脚本を書くセクションに所属していた。

身長が180センチ以上ある彼、Mさんは同じセクションの1コ先輩で、

根暗な上にろくな脚本を書けない俺は、よく怒鳴りつけられたものだった。

1コ上の男の先輩は彼一人だったから、先輩の中では一番親しくなった。

酔っ払って我が家に泊まった時に寝ぼけて、トイレと押入れを間違えてしちまったなんて逸話もある。

あとが大変だった。

すべての学生生活を通じて唯一率直に「先輩」と呼べる人だった。


Mさんは大学卒業後、いくつか目の職場として保険屋に就職し、数年後独立した。

俺は彼がまだ雇われ保険屋だった頃に彼の薦める保険に入っていて、

保険屋と客としての関係は十年ぐらいになっていた。

そんな関係上、会話はどこか他人めいてしまって寂しく思ったこともあった。


去年秋、そのMさんに聞いておかなければならないことが発生し、電話したら連絡が取れなかった。

方々に電話してみて、Mさんは「逃げた」のだ、と判明した。

独立した頃に建てた家も手放していた。

なんてこった。


ここまでが現実。


ある日、いい天気だった。家に帰るとMさんが来ていた。

「Mさん!何やってたんだ、あんた!」

いろんな思いが入り混じった声で学生時代とは逆に、俺は怒鳴った。

Mさんは保険屋のユニフォームだったスーツではなく、大学時代のユニフォーム姿だった。

ジーパンとポロシャツ。

眉がぼさぼさなのも学生時代に戻っていた。

伴侶が言う。「Mさん、おなかすいてるんでしょ?何かとるから」

「いやいや、奥さん、そのへんで食ってくるから」

「ろくな店ないって、このへん。とるからとるから!」

Mさんと伴侶がそんなことを言い合っているうちに目が覚めた。


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朝メシを食った。コーヒーを淹れた。思った。

夢なんだよなあ。

去年の秋、伴侶はMさんの遁走に怒り狂っていた。

夢の中でのように、伴侶がMさんを気づかうなんて、絶対ありえない。

それ以前に、Mさんが我が家にやってくること自体が、もはやありえない。

なんか、ぼんやりしちまう。