子供に必要なもの――「サウスバウンド/奥田英朗」 | 愛と平和の弾薬庫

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心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

上原二郎は中野区の小学6年生。

元過激派で自称フリーライターの父・一郎、喫茶店を経営する母・さくら、

10才歳の離れた姉・洋子、二才下の妹・桃子という5人家族の一員。


第一部では、二郎を取り巻く子供の世界のゴタゴタが繰り広げられる。

不良中学生・カツとその子分で二郎と同級生の黒木に、悪魔のような執拗さでつきまとわれるのだ。

同時に進行していく、上原家の居候となった30才の「おじさん」アキラの怪しげな動向。

父・一郎は二郎にプロレスごっこを無理強いし、保険庁やら、二郎の担任やら、学校やらに

やたらと口撃をかけたりしつつも、普段はただひたすらぐうたらしている。

家庭の生計はさくらが一人で支えている。

やがて、カツや黒木との切羽詰った関わり合いの中で二郎は、

自分でも理解不能な何かに衝き動かされるかのように強くなっていく。

そして、アキラの飛び込んでいった所。二郎に残してくれたもの。


第二部は打って変わって、父・一郎が物語を引っ張っていく。

西表島に移住した父が、東京にいた頃には考えられなかった働きぶりで、ボロ家を作り直し、畑を耕しと、

ひたすら働き続けるのだ。

しかし移り住んだ場所が、リゾートホテル建設のまさにその場所だったからたまらない。

「背広を着た人と父の相性はすこぶる悪い」とは二郎の言葉。

その言葉通りに父は吠えはじめ、暴れはじめる。

殺到し始めたマスコミと自らのカリスマ的存在感によって、有名人となっていく一郎。



上原一郎は身長190cm弱の大男で、口でやる喧嘩も体でやる喧嘩もめっぽう強い。

が、二郎には一度だけ相手の鼻っ柱を折る方法を伝授するが、それっきりで、

ゴタゴタに巻き込まれている様子の息子を心配すらしない。

「おう、二郎。ムスコは今朝も元気か」

西表島に移住してからも、その姿勢は変わらない。

仕事(離れの台所のペンキ塗りやヤギ小屋作り)を言いつけるだけ。

自分のポリシーに反するものに対しては、徹底的に論撃をふっかけ、時には体を張るが、

息子のために、という根拠の元には指一つ動かさない。


しかし、二郎はしっかりと心を成長させていく。


父親が自分の子供に見せるべきもの。

それを、この物語はストレートに伝えてくれている。


戦うこと。



その脇で、母・さくらも静かに、同じように子供たちに見せるべきものを見せている。


夫を愛すること。