4階の展望風呂に浸かって寝そべり型マッサージ器にしっかりゴリゴリされた一時間後、1階の「大理石風呂」にも浸かり、さてついにメインイベント!お夕食である。☆☆ホテルの素晴らしい所は「1万円ちょっと」でもしっかり「う~む納得!」という料理がいただける所だ。きちんと季節に応じたささやかながらもそれぞれに工夫の見える逸品が並ぶ。量が多すぎない所もいい。
だがここに現れる。ギシギシおばばである。名物と言ってもいい。
前に来た時はコースが違ったせいか、落ち着いた風情のおばさんがほとんどの部分を担当してくれ、あとになってちょこっと登場しただけだったが、その「ちょこっと」だけでふんだんにその個性を我々夫婦に刻みつけてくれたギシギシおばばが今回はしっかり全編に渡って我々の料理運びを仕切ってくれたのである。
広い食事会場(大宴会場)をギシギシおばばが元気な猫のように動き回る。若い女の子も同じように動き回ってはいるのだが、こちらはどうやら新人さんのようで、「お酒を」などと頼んだだけで「少々お待ちください」と言うとそのたびにギシギシおばばが「あ、あ……」と息せき切りつつ注文を取り直しにやってくる。
このホテル、と言うかしっかり「旅館」以外の何ものでもないんだが、お品書きというのをきちんとプリントして料理のそばに添えてあり、そこには「季節のお造り盛合せ」と書いてあるが、これが一向に姿を現さない。
「お刺身って最初のほうに出てくるもんだよねえ」と伴侶は言う。
俺も何となくそんな気がする。
伴侶はこの次点ですでに確信している。
ギシギシおばばの失策を、である。
「あのチャカチャカおばば(伴侶にとっては「チャカチャカおばば」らしいのだ)、やったね」
「え?」
「お刺身、忘れてんだよ」
はたして、汁代わりなのでそろそろご飯をとなったら火をつけてください、と言われていた小さな鍋に我々が火をつけたのを見て、なぜかギシギシおばば参上、小さく、「あ……」と人知れず発声し、何のためにやって来たのかその根拠も見せずにそそくさと奥へ。2・3分後、再び参上のおばばの両手には、いい感じにとろっとしなだれた刺身の皿が。
おばばさま、見てるだけでギシギシ音が聞こえてきそうなあなたがチャカチャカ動き回っているのを見ながらの食事ははっきり言って中々落ち着かないのではありますが、くれぐれもお体をお大事に、ご自愛のほどを。
まだ続く。