わかる時ってのは実にあっけなくストンとわかるもんだ、とカツシカゴンゾーは久しぶりに思った。
そうなんだ。わかる時はいわゆる目からうろこってなもんで、こんなふうに実にきれいに、わかっちまうんだ。
右折車と左折車とでは、左折車が優先!
なるほどなあ。そりゃそうだわ。まったく道理だ。そうかあ、こんなしっかりした理由があったんだなあ。
なんで自動車学校では教えてくれなんだ。
自動車学校では「左折者優先」のひとことで終わりだったのだ。
左へハンドルを切り、のろのろと横断歩道上へと進入しようとした時だった。
カツシカゴンゾーの目のはし、右のほうから自転車の姿が飛び込んできた。
おお、よかった気がついて……!
あわててブレーキを踏み込み、彼は静かに息を吐いた。
と、その次の瞬間だった。
今度は突如目の前に右側から、黒っぽい軽自動車が現れたのだ。
自転車をやり過ごし、ホッと息をついてアクセルを踏み込もうとした瞬間だった。
まったく気がつかなかった――軽自動車の存在に、である。
どだい、見えるわけがないのだ。
左へ曲がろうとしているカツシカゴンゾーの目は、
横断歩道上にあるもの、そこへ進入してくる歩行者や自転車を確認するだけで精一杯なのである。
「そういや、右折の時は左折車なんてしっかり視界に入っているぞ」
左折車から見えないものまで、右折車からは見えているのだ!
だから、視界の狭い、いわばその時点で弱者であるところの左折車を優先せねばならぬのだ!
心なし微笑んだカツシカゴンゾーの目に、高い青空がちょっとばかりまぶしい。
いきなり目の前に飛び込んできた軽自動車への憤りなど、
53才にして初心者マークをつけているカツシカゴンゾーには抱きようがないのだった。