待ちわびてやっと乗せた客は仙台駅までと言った。油断すれば閉じそうになる目をなんとか見開いて、車を出した。
うつらうつら、時々目がさめた。うしろの中年男は黙っていた。
5・6度目に目を覚ました時、中央分離帯、自動車修理工場、コンビニ、見覚えのある風景が広がっていた。しまった!しっかり眠っちまってた!いつの間にか45号線を走っている……。
駅ははるか後方である。中年男が乗ってきた場所からはワンメーターだ。さてメーターは、などと目をやる必要などまったくなかった。とっくに2000円を超えているに決まっている。
「すいません!すぐにUターンしますんで!」
女の声が返ってきた。どこかで聞いたことのあるような声があいまいに、ええ、はい……と言う。怒っている様子はない。かなりのんびりした女のようだ。
取って返したすぐ先のレストランの駐車場に車を入れた。ハイトーンな声が、何か食べられるようなものあるかしら、と言う。
彼女の口に合うようなものはないかもしれない。しかし他にこのあたりに食事を取れるような場所はない。
レストランの扉を開けると、そこは20畳そこそこのカーペット敷きになっていた。部屋の中ほどに無造作に放り投げられてあったクッションを持ち上げ、神田うのは部屋の隅に腰を下ろした。膝の上にクッションを抱きかかえる。
嫌いなタイプだ、と頭が思う。もともとテレビのバラエティ番組は嫌いだからほとんど見ないが、特にこの女の出ているものは一度も見たことはない。そんな女がそばにいるところで何をどうしようということもない。思考回路は潤滑油が充分な歯車のようにゆるゆるとそんなふうに回る。何も問題はない……はずだった。
俺は自分の中にふんわりと芽生えたものの存在をいぶかった。芽生えたものから派生した自らの視線のありように戸惑っていた。
ひっつめにして広く額をむき出しにした、小さな頭、その美しさから目がはなせずにいたのだ。
好きなのだ。元来、賢そうに見えるそんな女が好きなのだ。
「ここで何が食べられるの?」
大きな瞳が俺を見上げた。
戸惑いの薄い皮の下からすっかり姿を現した本来の自分が言った。
「どうしよう……」
(↑つい最近見た夢より)