バスに乗る | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

 ある人と別れ、俺はバスへ乗り込んだ。そのバスはとても景色のよい所を通ることで有名な路線バスだった。やがてバスは渓谷沿いの道へ入っていった。川の水はほとんど流れていないように見える。水は澄み、白い水晶色の川底を見せている。見とれる間もなく、バスは転覆した。いつの間にか小舟になっていたバスの運転手ならぬ船頭は「すぐに持ち直しますので」と言ってくるりと小舟を元に戻した。船頭はやはり運転手だった。バスの運転手然とした帽子はまったく濡れていなかった。俺たち乗客もまったく濡れなかった。


 時々バスに乗る夢を見る。決まって「変なバス」だ。


 高校へ向かうバスはひとつ乗り遅れると川向こうにある高校へ行くために大きく迂回し遥か彼方の橋を渡る。高校との間にある川は道路のある崖から遥か下にあり、まったく見えない。相当川幅のある川だということだけをなんとなく感じながら暗い渓谷を俺は眺める。


 坂を下りるバスはとてもバスなど通れそうもないような細い曲がり角の連続で、いつも途中で立ち往生する。それでも運転手は口を固く結んだまま曲がろうとする。完全にバスは座礁する。運転席から降りてきてしきりに首を傾げるだけの運転手。曲がれるはずなんだがなあ……。


 仙台駅前がだだっぴろいバス乗り場になっている。目的地へ行くバスの乗り場を探して探して探しても見つからず俺はいつの間にかだだっぴろい道を南に向かって歩き始める。右側には古臭い建物、エンドーチェーンがある。エンドーチェーンのほかに、ビルらしいビルはまったくない。俺はエンドーチェーンの前で左側に、砂埃が舞い上がるだだっぴろい道路を渡る。バス乗り場からぽつんと離れてひとつだけ停留所がある。「やっぱり違う……」、途方にくれて俺はエンドーチェーンのビルを見上げる。


 一人暮らしを始める以前、10代の頃は、住んでいる家が燃える夢をよく見た。仙台に一人残されてからまったく見なくなった。