レンタルビデオ店からある日突然「○月○日から×月×日(我が誕生日)まで旧作レンタル全品半額」という何ともうれしハズカシのハガキが来て、この際に、と俺はレンタルビデオ店へ通っているのである。で、前日のような片腹痛さを予感させる想い をさせられてしまったのだ。
そんでもって本日、モンダイのハリスン・ダークホースベストを返しに行ったのだが……その道すがらの我が煩悶よ。……さて、こういう場合は普通なら黙って知らんぷりして返してしまうのだろうか。そんで結局は別にどうということもなしで人々の日常は流れていくのだろうか。それがこのガサツにけがれてしまった現代版「世の常」なのだろうか。それともやはり、こんなことを悩む方がどうにかしてるのであって、真実は当然の原理をもって白日のもとに晒されるべきなのであり、俺のような立場なら当然のような顔をして、「こんな傷物を貸し出しおって、この店はどうなっておるんだ!?」と怒鳴り込んで当然なのであろうか。しかし怒鳴り込んだりしてしまったらこの先あしを運びにくくなる。ここはひとつ普通に齢を重ねた大人のようなフリをして落ち着き払い、「いやその、あのですね」と事情を語るべきなのだろうか。ああ、世間にもまれていないガキオトナはこの程度の事態で本当に悩み混んでしまうのだ。(悩み混む?)
しかしてレンタルビデオ店はもう目の前である。こんなの着てウォーキングはもうしんどいね、の薄でのパーカーの背中ポケットから俺はモンダイのものの入ったレンタルビデオ店のレンタルグッズケース(?)を引っ張り出して手に持ち、歩み寄らば開くレンタルビデオ店のドアを入って行った。
だが、いつもならそこで返ってきたブツを点検している女の子たちが今日に限って出払っている。
「すいません……!」
少々お待ちくださいと言ってから4・5秒してレジを打っていた店員は来なすった。はて?という顔。
「聞くのに差し支えはなかったんですけどね」と俺、ハリスン・ダークホースベストのCDをむき出しにする。「これ……」
まったく問題はなかった。
「ああ!もうしわけありません!」と言って、かえってあっちが怖れを感じ始めている様子なのである。
おそらく金返せ!とか言われるとでも思ったんだろうと思われる。がしかしこちらにそのようなセリフの準備はない。おねえさんが重ねて、
「申し訳ありませんでした!」というのを潮に、
「いえいえ」とその場を歩み去ったのでした。
しかし、あの調子だと、実際に俺がCDを割ったとしても弁償ということにはならないんだろうなあ。いやいや、この経験を悪用する気はありませんよ。音楽は宝ですから。それに、CDってあんがい丈夫なのだ。かのジョージ・ハリスン「ダークホースベスト」は縦にカツンと固い所に落としたと思われる。そんなヒビの入り方だった。
P.S.
今日は「返却の際には歌詞カードも一緒にお返しください!」と言われて、ドアーズの「モリソン・ホテル」を借りてきた、のだが、そのCDにはなんと歌詞カードなんぞ入っていなかった。
ハリスン・ダークホースベスト事件の次はモリソンホテル事件なのである。やんなる。
なんだかなあと思いつつも、また返しに行く時まで気になってしまう自分が予想されたので、今度はさっそく電話した――ら、いろいろ説明を受けて普通に返しても大丈夫なことになった。
正直、「○○○(レンタルビデオ店の名称)!どうなっておるんだ!?」ってな気分である。だが、かの地は我が重要な音楽拠点、失うわけにはいかないので、言葉を荒げたりなど決してできないのだった。
小心の日々は続く……たぶん死ぬまで。