1時間に1回は夢と現実の間を彷徨い

お腹に力が入ってその痛みで起きる





ずっとその繰り返し






気づけば、お外は明るい








ーーー 6:00 検温、血圧 ーーー








手術が終わり

7時間しか経過していない

初めての朝だ







まず思ったこと







・声が出ない

・体が動かない

・目だけでしか周りを見る事ができない

・背中が痛い

・お腹が痛い

・力が入らない

・やばいホントにホントにどうしよう










  (これしか考えられなかった)









(何も訴える事が出来ない)







病院の朝は慌ただしい





特別監査室前の通路は
看護師さんが、いっぱいいる





PCに打ち込んでいる







そんな中、1人だけ

たった1人だけ

どこからどう見ても様子がおかしい



【キャパオーバー】



看護師さんがいた







ベッドに体が当たってもお構い無し







《キャパオーバー》の運んでる荷物が



ベッドの足に当たる
(え!?)



柵に当たる
(痛い…)



点滴に当たる
(倒れちゃう…)





『ガッシャンガッシャン』







気にする素振りも全くなし







ベッドに当たった振動がお腹に響く






 (やばい…)






開腹手術のお腹の痛みで
思うように声が出せない






「痛いよ、痛いよ」






それしか言えなかったし


その声が届くこともなかった







お腹に力が入らないから
ウーウーうなっていたら
声が出るようになった








私のその声を届けるには
口元まできてくれないと

声が聞こえない
声が届かない

お腹に力が入らないように話す





感情のない

少しの音で掻き消される音量







そんな時に


《キャパオーバー》


看護師さんが来た







(ガラガラ酒焼け声のおばはん看護師)







ベッド脚に看護師さんの足がぶつかる

ベッド柵を看護師さんが掴み揺れる

ベッド柵に看護師さんのお腹が当たる







《《《 全ての衝撃が私のお腹へくる 》》》







 (なんなんだこの人は、わざと?)






キャパオーバーが私に言った






「体、拭かなくちゃいけないし
早く歩かないと治らないから
まず何時に体拭く?」


「それと部屋も移動するでしょ?」







と言い勝手に私のベッドを動かし始めた







(えっー⁉︎ちょっと待ってー‼︎)








《痛い痛い痛い〜お腹に響いて痛い》

 





特別監査室から一般病棟へ移す気だ







ベッドを足元から動かし始めたが

私の両腕には点滴が繋がっている

ドレーンが、いくつも付いている






キャパオーバーは力尽くで
ベッドを動かし始めた






ベッドの足元を病室の入り口へ

方向転換して出そうとしてる






点滴やモニター色々と機械があり

たくさんの物にベッドがぶつかる







『ガッジャーン!!』

大丈夫か?何か落ちたぞ






何も気にする事なく病室を破壊していく







私にとってお守りとなる

ナースコールを手に握りコードを

ベッドの柵に巻き付けている





しかしキャパオーバーが無理矢理

力尽くでベッドを動かすから

そのナースコールのコードが

引きちぎれそうになっている






 (やばいぞ、このキャパオーバー)






『ガッシャーン!!』

 また何かが落ちたぞ
破壊する気か!?






お腹に響いて痛すぎる







(本当にもうやめて)





(やめてくれ)





(ていうか、やめろ)







全ての行動が雑で
痛くて痛くて、本当やだ



なんなのこのおばはん



マジでどっか行ってくれよ
この人だけは関わりたくない






そもそも担当看護師じゃない







 

そこへ担当の看護師さんが現れた

病室のグッチャグチャな光景を見て
看護師さん唖然としている








キャパオーバーが何かを言っているが

キャパオーバーを完全無視している






担当看護師さんは優しく私に


「あとで体拭きしますね
 今日1回は歩けると後が楽だからね
 術後24時間以内に歩きましょうね」





と言いグッチャグチャになった

病室を片付けて元に戻してくれた







結局、病室の移動はなく
ここに居ることとなった






(看護師長さんにお願いをして
 キャパオーバー看護師の行動を説明し
一切関わりたくないと伝えた)







そして1日1回は歩くこと

24時間以内には必ず起きて歩く

体も拭いてもらう為には起き上がる






 (簡単に考えていた)






開腹手術の傷の痛みで
起き上がる事ができない


(いつも何も考えず起き上がっていたのに)







“ベッドの高さ調節で体を起こせばできる”







 画期的な方法だと自分で自分を天才と
思ったが、そんな単純なことではなかった







ハンパじゃない
尋常じゃない
とにかく痛い

痛すぎてこんな痛み生まれて初めて

お腹を切るとこんなに痛いのかと

実感した






看護師さん達が一緒に手伝うよと
手を貸してくれたけど
ムリムリムリムリムリーーー





痛くて痛くて痛くて痛くて…

とにかく痛くて…

ほんとにムリ、、、








だけど悔しかった


私は負けず嫌いだし
ヒネクレてるから
人に言われてするよりも
自分から、やり始めたい





せっかくだけど看護師さんの手は借りず










  ーーー 自分で、やる ーーー










    (自分に負けたくないんだ)





時間は思っていた以上に、かかった





寝ている状態からベッドリモコンを使って



頭と足元〜少しずつ少しずつ
起き上がれる様に
調整をして体勢を整えながら
上げていった








凄まじい、この痛み!!! 








ピーンと伸びてるものが少しずつ縮まっていく

この時の痛さといったら説明が難しい痛さ





1時間くらいかけて体の上体を起こして

なんとか90度まできた





あとは右足
左足を右に向けて
体も右側に持っていく





と、また そんな簡単にはいかなかった










なんせ痛い!激痛!!ハンパない!





そばで見ていた看護師さん

2人がかりで手伝ってもらい

痛さあまり涙が止まらない







悔しくて情けなくて自分に負けたくなかった







そして







 「いっせーーのーせっ!!!」







やったーーー!立った!立てた!!








・・・・・ん???
あれ?
これ私の足?義足?







右下半身が麻痺していて感覚がない





立てるけど歩けない





頭では右、、、左、、、




いつもなら感覚があるから
膝から太ももから
上に上がるよね


けど感覚がないから足が上に上がらない


(えー!えーーー!?)







長い時間、正座をして
いきなり立ち上がると
感覚がなくなって転びそうになる

なんか、あんな感じに似てる








ただ唯一救いだったのは
つま先に行けば行くほど
指だけは感覚があったのがよかった





けど歩かないのは…悔しいから

歩行器を使って歩いた





お腹に力が、いかないように歩きながら







  「足に力…足に力…」







と言いながら歩いた





そうしないと、またお腹に力が入り

お腹の張り裂けそうな痛みがくるから


ずっと…ずっとね
呪文のように


「足に力…足に力」


アシニチカラ





歩いた距離、約10メートルを往復





先生より手術後12時間経っていないのに
歩く患者さんは珍しいと誉められた









嬉しかった

頑張ろうと思った







この痛さから早く解放されたくて

弱い自分を見せたくなくて
自分も見たくないし

明日から毎日歩こう!!と決めた










術後9時間30分で起き上がり歩いた