夫の細く高い鼻梁と秀でた額には、夫の際立った知能の高さが、クッキリと刻印されていた。


 そして夫の、近眼の人間特有の、大きく潤んだ瞳は、夫の浮世離れした、穏やかな性格を如実に表していた。


夫の職業は、ニッチな分野の研究者だった。

その分野の研究者で、夫の名前を知らない人間は、多分いない。


しかしながら、昔から学者は浮世離れした貧乏だと相場が決まっている。

夫の場合、優秀であったことと、実家が多少裕福だったため、ほとんど稼ぎにもならない学者になれたのだ。


初めて夫と出会った時、ハッキリ言って、夫の服装も髪型もヘンだった。


夫は浮世離れした学者であり、しかも9年近くも男やもめの一人暮らしだったのから、まあ仕方ない。


顔立ちは決して悪くないのに、髪型に至っては、若い頃の毛沢東ソックリだった。


わたしはチラチラと夫の顔を見ながら、


「顔面宝探し」


を始めた。


その結果、髪型と服装さえマトモにしたら、


やつれたメイクとボロボロの衣装を身に纏った、

「たそがれ清兵衛の時の、真田広之に似ている!」


と思い至った。

そして

「顔立ちは決して悪くないのに、もったいない」

とも思った。


仕方ない。

せっかくわたしに一目惚れてくれたのだ。

ここはひと肌脱いで、この人をマトモな外見にしてあげなくちゃ。


次のデートは夫の服を買いに行くことに決まった。


ただし条件は、


「散髪屋さんではなく、小洒落た美容院に行って、髪型を整えて来ること」


夫は子供のようにはしゃいで言った。


「うん! 必ず美容院に行って来るね! 楽しみにしててね、ありがとう!」


そんな夫を、わたしは不覚にも、

「かわいい」と思ってしまったのだった。