認知症になってしまった母へ

 

ママ、寂しいよ。

あなたは、わたしの抵抗も振り切って、わたしのいる世界とは別の世界へ1人で行ってしまったね。

遠くへ行ってしまったママ。

いつか、もっと遠くへ、手の届かない遠くへ行ってしまうのだろう。

ママとはいつも昔から喧嘩ばかり。

子供のころは、あまりいい思い出もないけど、

自分のことばかりに夢中で、

娘のことなんか眼中になかったね。

自分がちやほやされることに飢えてたんだよね。

わたしが男の子と遊ぶと、焼きもちやいてたね。

パパの稼ぎが悪くて、ママは一生懸命働いたね。

それこそ一生懸命に。

そしてよく遊んだね。

あのころは、楽しかったんでしょう。

夜遊びをして、よく中学生のわたしに諫められてたね。

どっちが親だかわからない。

きれい好きで、毎日家の中をきれいにしていたね。

器用で、仕事場で仕事が一番できて、給料がほかの人より多かったね。

 

今は掃除、洗濯、料理、何にもしなくなったね。

オシッコをもらして、紙おむつをするのが嫌なら、せめてパットぐらいしてよとわたしにいつも怒られてるね。

犬のオシッコに外へ連れて行くことも忘れて、毎日犬が家でオシッコをするようになったね。

家の中はオシッコだらけだね。

 

認知症だなんて、気付かなかったよ。

最近、掃除しないな~、ホコリたまってるな~と思ってたけど。

洗濯も途中でやめちゃうようになって・・・

何度言われても、同じことをして、また兄に怒られて・・・

同じ服を何日も着るようになって・・・

ママが認知症になるなんて、びっくりだよ。

最近は、わたしに怒られるままになってるね。

照れて、急に優しくなんかできないよ。

でも心の中は、ほんとに心配しているんだよ。

食事も、ちゃんと気を付けてつくってるよ。

心の中は泣いて泣いて、涙がいつもあふれて・・・

 

ママ、いつかさよならになってしまうママ、今はその準備をしているんだね。

死んでも辛くないように、そんなふうに自分を変えているんだね。

大丈夫だよ、ママ、待ってれば、わたしもじきにそっちへ行くから。

それまで天国でパパと喧嘩でもしてて。

寂しくなんかないよ。

お別れじゃないんだよ。

ちょっとの間だけだよ。

わたしはまだこの世界でやることがあるから、守らなきゃならない人や動物がたくさんいるから。

まだこっちで頑張るよ。

だから・・・、向こうの世界へ行ってしまうまで、わたしはときどき怒ると思うけど、世話させてね。

怒るときは、心の中で泣いてるんだとわかってね。