会社を変わって数か月経過しているのに、依然として退職金が支払われない。

 

どういうことだろう、はっきり調べる手立てはないものかと考えあぐねていたある日、生命保険の更新で保険会社の担当者と会ったので何となく聞いてみた。

最近は生命保険会社でも投資商品があり、担当者はよく勉強もしていて、企業のことや金融のことにとても詳しい。

身内の恥をさらすようで気が引けたが、

「夫が退職金はないと言っていて未だに支払われていないのですが、そんなことあるんでしょうかね?」

 と問うと、いとも簡単に明瞭な答えが返ってきた。

 

「給料明細は見てますか?」

娘が生まれてこのかた給料明細を渡されたことはなかった。

子育てに追われる日々で私も催促しなかったのだが…

銀行口座に入金される金額が1か月分の給料という認識でこれまで生活してきた。

 

夫は20年ほど前にこの春退職した会社に転籍して、その時にまとまった金額が入金されたことを伝えると、

「おそらくそれが前の会社からの退職金で、先日退職された会社からの退職金は毎月の給料に加算されていて、すでに清算されているのだと思いますよ。給料明細を見ればそれが一目瞭然で分かるんですけどね」

…なんてことか、と絶句した。

最近の会社はそういう形態が多いのだそうだ。

その通りなんだろう。

 

退職金だったらしいまとまった金額は全て住宅ローンの一括返済に充ててしまっていた。

 

この春会社を変わった時、退職金はないと言うので、だったら前の会社から退職金をもらっていたのかと確認すると、もらっていないと返答してきた夫、嘘だった。

 

給料明細も持って来ず、退職金は給料に加算されているのでその分は把握しておく必要があるという説明もなく、私が貯蓄してきた中から数か月に700万円も工面させて、退職金はどうなっているのかと聞くと「役員だったから出ない、給料を沢山もらっていたから出ない」などとしらッと答えた夫。

給料を沢山もらっていたといってもそれはここ数年の話である。

 

転籍したときにストックオプションもあったので、まとまって入金された金額はてっきりストックオプションだと思っていた。まさか退職金だったとは…

 

だとしたらストックオプションはどこへいったのだろう?

平静を装って穏やかに担当者から保険商品の話を聞いていたが、心の中は暗雲が一気に立ち込め、何とも言いようのない暗く沈んだ気持ちに落ち込んだ。

 

当時を振り返ってみると確かに夫は羽振りが良かった。

朝の出勤時にタクシーを呼んで乗り込む毎日で、それを見ているご近所さんに驚かれたり、乗用車の買い替えの際は必要もないオプションを自分が払うといって追加し(と言いつつ払わなかった)、クローゼットの中にはヴィトンのバックを隠していたり、いつの間にか腕時計はブルガリになっていた。

 

要するにストックオプションで得た金額はすべて自分で使ってしまったということだ。

家族には1円も使わずに。

 

そういう感覚がほとほと私には信じられない。

将来に備えて貯蓄するとか、家族を旅行に連れていくとか、それ以前に臨時収入があったら夫婦で将来を見据えた計画を相談するのが世の夫や父親の常なのではないだろうか。

 

夫に嫌悪感を抱きはじめている自分を感じた。

もはやそういう人間と同類の自分にはなりたくない、私の残りの人生でこれ以上かかわりたくない、と心底思った。