90年代初め。

 

私は、とある情報誌の編集に携わっていて、仕事中は分刻み、

 

残業も多い厳しい状況だった。

 

世の中はバブル景気真っ只中で、ディスコに行ったり合コンが全盛期だったのだが、

 

残念なことに、仕事が忙しすぎてそういう、いわゆる「アフター5」の楽しみを

 

享受することはほとんど不可能だった。

 

そして、まだ携帯もスマホもない時代。

 

かろうじて「ウォークマン」はあったけどね。

 

そんな日常で、私の普段のささやかな楽しみは、

 

帰宅して、寝支度を終えた後、ベッドでくつろいで、「マリ・クレール」

 

を眺めることだった。笑

 

ほとんど、その楽しみのために仕事をしていたと言ってもいい。

 

他のファッション誌ではダメ。JJもCan Canも。

 

AnAnもダメ。マリ・クレールじゃ無いとダメだった。

 

誌面は、パリ、ロンドン、イタリアなどのヨーロッパの特集。

 

または映画などの特集。

 

そしてファッション写真は、おそらくフランスの

 

マリ・クレール編集部で作っているもの。

 

私たちのコーディネートの参考になる写真ではない。

 

「ファッション・ポートレート」

 

という一ジャンル。純粋に鑑賞するための写真だった。

 

この雑誌を通して、レイモンド・カーヴァーを知り、夢中になっていた。

 

 

 

これは、カーヴァーのパートナーであった詩人、テス・ギャラガーの

 

インタビュー記事。

 

 

 

 

 

 

 

 
ファッション写真。
 
思うのだが、この雑誌は、女性誌という体裁である必要はなかったのではないか。
 
そして、愛読している男性読者も少なからずいたのではないか。
 
700円という、当時としては安くなかった雑誌を、私は毎月楽しみに買い、
 
そして寝る前にワクワクしてページをめくった。
 
その後、イタリアに住むことになったのも、ひょっとして、
 
この雑誌の影響だったのか?
 
そこは、はっきりとはわからない。
 
当時は、ある意味、雑誌の黄金期。
 
今では、こんな贅沢な雑誌を作ることはもうかなわないのだろう。
 
当時買っていた、30冊余りのマリ・クレールは、ずっと大切に保管しておきたい蔵書だ。
 
もう一つ、大好きだった雑誌がある。
 
「太陽」
 
だ。
 
これは、父が買っていて、父の本棚に何十冊もあり、子供の頃から抜き出して眺めていた。
 
その何十冊。
 
父の死後、いつの間にか処分されてしまったようで、とても残念だ。
 
一冊だけ、私が密かに盗み出して自分の本棚に入れていたものだけが残っている。
 
「智恵子抄」の特集だ。
 
このまま単行本にしてもいいのではないか、という傑作だと思う。
 
これは、次回紹介したいと思う。