前回の庭と猫の記事に今までで一番「いいね」をいただいて、とても嬉しい。ありがとうございます。
庭や動物の絵をもっと描きたい。描きたいものがありすぎる。問題は自分の手の遅さで、まったく追いつかない。使い手があまりにも修正と試行錯誤を繰り返すので、紙も絵の具も筆もいらいらし、くたびれ、しまいには愛想を尽かす。時計もだ。描き終える前に光が変わり、日が沈む。

前に描いたシリーズを終わらせたいのに、なぜか毎日、まったく予定していないものを描いてしまう。

今日は船。
外出自粛に加えて朝から雨なので、出掛けたい気持ちが描かせたのかもしれない。
ドイツ人の友人から贈られた、その人の故郷ドイツ北部シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の写真集から、1908年製造の蒸気客船を参考に、自分の好きな色で描いた架空の船。初めて、名前の通り、「セルリアンブルー」の絵の具を空に使った。また、「マリンブルー」を海に。描き終えてみると、それがどこにあるかは、本物の空や海の色を一言で言えないのと同じく難しい。

全く不本意な形で有名になってしまった、あの豪華客船。世界中を巡り、魅力的な港に寄港し、新しい出逢い、発見をして、また次の港へ。船内のきらびやかな内装、夜毎のパーティ、生演奏の音楽、美味しい食事、わくわくする美しいキャビン。少しクラシックな旅人の夢。私も死ぬまでに一度は、と憧れていた。あの夢の船が、コロナウィルスの悪夢の現場になろうとは、誰が想像しただろう。しかし、船上においては、感染病や検疫制度は長い歴史を持っているだろう。それでもこれほど衛生や管理が発達した現代で、このような恐怖があることを誰もが忘れていたか、知らなかった。今、クルーズ観光は危機に瀕し、海だけでなく空の旅もほぼ不可能になってしまった。

使い慣れた紙がなくなりかけ、買いたくてたまらない。しかし、生活上必要な外出とは認められないし、出たところで、画材屋は休業しているだろう。通販にしても買うのは部屋でクリックひとつだが、運送業界がコロナウィルスの影響で極度の人手不足になり、生活必需品を運ぶことすら困難、感染のリスクと闘いながら運んでくださっている今、そんな買い物をしている場合ではないと、言い聞かせる。
本当に描く気があれば、道具など問題ではない。

今夜は夢の中で、この小さな船に乗って、広い海へ出ていき、まだ知らない世界を旅したい。そこでは何の心配もなく、マスクをつける必要もない。同乗の人々とワインやビール、シャンパンのグラスを手に語らい、笑い、歌い、空と海からくる新鮮な風を胸一杯に吸い込もう。

(使用画材:水彩、ダーウェント・ドローイング鉛筆チョコレート、ファブリアーノAccademia )