今年も始まったリオフェス。
二番手に登場したのは百夜一夢「岸田理生と有沢美喜」。
月蝕歌劇団ゆかりの女王様MIKAさん率いるももよが満を持してのリオフェス参加です。
岸田理生「料理人」「私の吸血學」と有沢美喜「淫蜜のしたたり」「天使のうぶ毛」を組み合わせたオムニバス風の作品で、「有沢美喜」は岸田さんが官能小説を書いた時のペンネーム。
そのことを知らないお客さんもいらっしゃいましたが、自分がそれを知ったのは2017のリオフェスで「血花血縄」を観た時のこと。
そこにはそれまで月蝕で観ていた柴奏花さんとは一味違う奏花さんがいました。
あれから7年、また奏花さんが有沢美喜作品にお出になるのかと思いましたが、奏花さんの出番は岸田理生さんパート。
メインは「私の吸血學」に所収された「ちのみごぞうし」のALUCARD館の庶子。
月蝕でも「笑う吸血鬼」で留奈を演じた奏花さん。
この庶子も冥土から呼び出された男を父に持つ妖しげな不死の吸血貴公子。
「吸血鬼の似合う役者」
それは間違いなく褒め言葉です。
血糊に染まるシーンがなかったのは残念といえば欲が深過ぎと言われましょうな。
この舞台での奏花さんは、これまでの奏花さんとは一味違う。
それは演じる役が「男役」なのです。
奏花さんが修行を積んだ月蝕歌劇団は「暗黒の宝塚」と異名を取ったように、男性役を女優さんが演じることが多かった。
でも月蝕で奏花さんが演じた男役は自分が覚えている限りでは少年探偵団員役を1、2回やったのみ。
超絶美女には美女役をということだったんでしょうね。
その奏花さんが今回は男役がメインでした。
プロローグの水上ゆかさんのピアノと歌の後、暗転の中から現れた黒い男装の奏花さん。
手にした本に火を灯し、「吸血鬼を呼び出す方法」を語り上げる。
これまでこのブログでも度々称賛して来た力強い魔声が場内を一気に作品世界へと引きずり込む。
呼び出された吸血鬼は沙夜さん、呼び出した女は新井舞衣さん。
奏花さんの声に合わせて妖しい光景を生み出す二人。
この二人の間に生まれたのが奏花さん演じるALUCARD館の庶子。
その役はその後沙夜さんと二人で演じられます。
奏花さんの見せ場は「贄櫃の中の処女にめぐり会ったことについて」のシーン。
凛として現れる庶子の奏花さん。
棺の中に眠っていた「不幸を眠る女」儒艮(じゅごん)を起こしその喉を噛む。
血を吸われて蘇る女に驚き身を離し、逃げ去る庶子。
その驚く奏花さんのこれまであまり見せたことのないような表情の何と美しかったことか。
男役の奏花さん、いいものを見たと思っていたら、もうひとつの男役が。
それは「料理人」のタコとでんでん虫のシーン。
タコを飼っている男とでんでん虫を飼っている男に、タコとでんでん虫を食べさせようとするレストランの店員中村太郎。
それが奏花さんの役ですが、そのご尊顔にまさかの付け髭が。
ファンになって10年以上経ちますが、奏花さんが髭を付ける日が来るとは夢にも思わなかった。
その髭顔で怪しく徐々に盛大に食べることを煽る様子はアングラパリビを自称する奏花さんの面目躍如。
推しは追いかけてみるべきです。
まだ知らぬ魅力に出会えます。
初日の奏花さんの男役はこのふたつでしたが、翌日の千穐楽ではもうひとつ男役が。
初日、ラストのクジラの大和煮を食べるシーンでは缶詰を手にした女性を演じていた奏花さんでしたが、千穐楽では緊縛シーンが追加され縛られた麻雨さんがその役を演じました。
奏花さんはそれを物陰に潜んで見ている白衣の群衆のひとりに。
上手側の一団の一番手前に屈んで見ている奏花さんの期待に満ちた妖しげな表情がまた何とも言えない。
3公演通して見て本当に良かった。
でなかったらどちらかの奏花さんを見逃すところでした。
ところでこの作品のフライヤーを手にした方々はお気付きでしょうか。
裏面の役者さんの写真がカードデザインになっていことを。
それぞれにはローマ数字が書いてあって、MIKAさんに教えてもらったんですが、タロットカードの見立てになっていたんです。
奏花さんの数字は「XV」、これは「悪魔」のカード。
「悪魔」が最高の賛辞となる奏花さんの魅力も凄いし、贈るカードに「悪魔」を選んだMIKAさんもさすがです。
9月にはまた百夜一夢の公演があります。
ずっと見続けていてもさらに次は何で魅せてくれるのか期待しかない役者、それが柴奏花さん。