高取英さんがこの世界から退場して5年余の歳月が流れました。

月蝕歌劇団も名こそ残りましたが完全休止状態。

そんな中で、かつて月蝕歌劇団に集った役者さんたちがそれぞれの形で高取さんの芝居を受け継いでいます。

それは日本国内に留まらず海外にも。

4月5日と6日、四谷三丁目駅のほど近く、CON TON TON VIVOで開催された公演もそんなことを思わせるものがありました。


「からくり実験室第10回記念公演《葉桜と魔笛》 」


月蝕で共演し、今は一緒にベトナムで活躍している三上ナミさんと西風じゅんさんがあちらで開催している公演を、ついに日本に逆輸入。

「葉桜と魔笛」は太宰治の作品。

それと「三上ナミと謎カンパニー」のボーカルでもあるナミさんの歌が融合した1時間ほどの舞台。

会場のCON TON TON VIVOは、これも月蝕ファミリーのMIKAさん率いる「百夜一夢」の根拠地でもあり、去年は友利栄太郎さんが高取さんを偲ぶ「月蝕忌 人力飛行機ソロモン」を上演した当代の月蝕聖地とも言うべき場所です。

参戦したのは6日。

年度替わりの諸々で5日は行けなかった。

嗚呼、無理してでも行けばよかった。

というのも、今回の公演は自分には特別の意味があったから。

「倉敷あみさんの出演」

月蝕歌劇団10代目トップが久方ぶりに舞台に戻って来る。

なのに、ね。

5日と6日で演目違ったそうで、5日には月蝕の曲も多かったとか。

ソワレで会った友利さん、「昨日は良かったですよ」と駄目押し。

三上版「葉桜と魔笛」、あみさんの出演を抜きにしてもとても素敵な公演でした。

原作を知らなかったのでタイトルだけ見て「ひょっとしてあの「花と蛇」の葉桜団が出て来る?じゃあ魔笛とは?」とか妄想してたんですが、さにあらず。

出演者がナミさん、じゅんさん、あみさんに加えて、はるのうらこさんという、中々に濃い面子。

要所要所に差し込まれるナミナゾのオリジナル曲や懐かしの昭和歌謡。

それが太宰の世界を完全にナミさんの世界へと変貌させていました。

明るいのに切ないナミさんの歌声があのストーリーによく似合っていて。

それにJ・A・シーザーの「和讃」があって、マッチや蝋燭、狐面、光り物、包帯など月蝕の世界を彷彿とさせるものもあって。

なんか超豪華版の詩劇ライブを観ているような気分でした。

それに20歳と50代の姉桜子のを演じた西風じゅんさん。

いい感じの初老のご婦人になってましたね。

1月の大久保千代太夫一座の時も感じましたが、渡海されてからもどんどんいい役者さんに進化しています。

次にはどんな西風じゅんに会えるんでしょう。

ベトナムで会ったらまた一味違うんでしょうね。

それにしてもあの手紙の感動シーンに「そうだ!ベトナムに行きましょう!」を入れてくる勇気には脱帽する。

ベトナムを訪れた秋篠宮ご夫妻の前でも披露した、皇室御用達の曲とは言いながら、あの桜子も梅子も涙ながらのシーンに明るさ満点の曲を放り込んで、しかもそれで世界観も空気感も壊れずに話が進んで行くという奇跡。

凡百の演出家なら怖くて絶対にやらないことをやってのけるその凄さ。

マチネのあとにはアフターパーティー

「出張スナックももこ」がありました。

西風じゅんさんの旧名は黒木ももこさん。

月蝕が芝居砦満天星で実験室公演をやった時にそのカウンターでドリンク売りをしていたももこさん。

人呼んで「スナックももこ」。

それがベトナムではちゃんとしたお店になったようで。

しばしの歓談後のお開きに歌われたのは「ネバーランド」。

月蝕の詩劇ライブを観ている方にはお馴染みのラスト曲。

なんか懐かしくて、振りをきっちり踊る友利さんの隣で自分も小さく踊ってしまった。

作品としては1時間ほどの小品。

でも、そこには「三上ナミ」「三上ナミと謎カンパニー」「西風じゅん」はもとより、あの頃の月蝕歌劇団と今の月蝕ファミリーたちまでもが詰まっていたとても濃密で素敵な作品でした。

客席にも旧月蝕ファンのほかにもベトナムでつながった方々も大勢いて。

次にからくり実験室日本公演があるのはいつか分からないけど、今度は誰がゲスト出演するんだろう。

あみさんの再降臨は当然として(伏してお願いします)、マチネに来ていた久堀瞳さんあたり出ないかなとちょっと期待している。

この「葉桜と魔笛」、ベトナムでも上演されていて、その様子がYouTubeに上がっていますので、お時間ありましたら是非。

あちらではナミさんとじゅんさんの二人芝居。

よくこれを二人でやろうと思いましたね。

日本版の4人が多分ちょうどいいんじゃなかろうか。

それにしても異国の地でこんな芝居を上演し続けているのは本当に凄いこと。

寺山修司さんは海外公演はやったけど、このお二人は移住してそこでゼロから立ち上げて続けているんだから、日本演劇の布教としてはある意味寺山超えとも言えそう。

きっと高取さんもよくやってますねと見守っているんじゃないかな。