女川古道をたどる | 世界のブナの森

女川古道をたどる

山形県小国町から蕨峠を越えて女川古道をたどり、新潟県の女川上流へ。いちどは行かねばと懸案になっていた。

 


2019年にかなりの部分を歩いていたのだが、当時は比較的明瞭だった踏み跡が今回はリョウブやツクバネなどの低木に覆われて、かなり歩きにくくなっていた。前夜の雨で全身がずぶ濡れになる。コロナ禍以降、いちども刈り払いが行われていないようだ。

 


ユキツバキとウラジロヨウラクが美しかった。今年の見納めか。

 

標高が200~300m台の低地なのに、5㎞四方にわたって集落どころか、林道やスギ人工林などがまったくない場所は、本州にどれだけ残っているだろうか。私は他に知らない。
雪崩地形の断崖が続くなか、たどりついた女川上流の五淵ノ平には少し平坦地があってブナ林が広がっているが、意外にもそこは原生林ではなく、人々が長年にわたって炭を焼き続けた二次林が広がっていた。ただし、500メートルも進むとその痕跡は消え、極相林になった。同じ朝日山系の針生平や桑住平、日暮沢などの類似の地形には車道が通ってブナ林は姿を変えているが、ここには歩く道も残っていない。

 

アラカワカンアオイ

 

モリアオガエルとクロサンショウウオの多い湿地

 

極相林の下層にはユキツバキが多い

 

ブナの古木の幹には、古い鉈目が残っていた。舟渡と読める。途中の稜線には大正時代の鉈目も残っており、ここに通っていたのは小国町側の人々だったことが窺い知れた。ただし、「被害者」とあるし名前は消してあるし、穏やかならぬ文面だった。

 

周囲5㎞四方にスギ林がまったくないブナ林では、この時期に多発するクマ剥ぎは広葉樹に見られた。広葉樹を剥ぐことはもちろん他でも見ているが、「近隣にスギがない場所」を探すことは難しい。

 


標高350メートルのブナの原生林は期待に違わず素晴らしかったが、ずいぶん長居してしまったうえに、帰りには雪崩斜面の絶壁に咲くヒメサユリを見に行こうとしたりしているうちに、前の週に痛めていた左膝の古傷の状態がどんどん悪化して、車に戻った時には薄暗くなっていた。

 


春のクマ探しや連休の火入れから一緒に歩いていた山大ワンゲルの2人が、今回もサポートしてくれた。感謝。
5月25日、山形県小国町~新潟県関川村女川源流