妨害工作(1)
五輪にどうしたと聞く花山。「怒鳴り声が事務所の外まで聞こえたぞ」「まったく金原後援会は手数がかかる」「何があった」「選挙まであと2カ月もないのに、オヤジから地元も任されながら騒動起こしたら、ワシの辞表もんよ」「だから、どうしたんだ」「金原からの票田買いが順調に進み、金原の地区後援会の稲山派への衣替えのために、幹部クラスをバス旅行に連れて行き、さらに、県議、市議、町村会議員には金を配ったわけです」
「あとは金原自身が出席して、金原後援会の解散総会を開いて、そのまま稲山後援会へ移行させる段取りを残すだけだよな」「でしょ」「バス旅行も計7回。女たちは東北旅行、男は四国・瀬戸大橋観光へ連れて行った」「でしょ」「で、どうした」「さっき、幸町事務所から連絡があって、金原派の市議3人が、「事情があって稲山さんを支持できなくなった」とウチが渡した金を返しに来たと言うんです」「なんだと」
落合に電話する五輪。「ちょうどよかった。これからそちらに伺おうとしているところです。え、それはホントですか。くそう、あいつらバス旅行の時は「稲山先生と生死を共にすることを誓う」とか言ってたくせに」「どうした。また何かあったのか」「どうしたもこうしたもないよ、社長。今度は幸町を中心に4地区の金原後援会長が「稲山支持が難しくなった」と言って、落合社長のところに各地区の票の取りまとめ用に渡しておいた金を返してきたんです」「クソ。どいつもこいつも一体どうなってるんだ」
幸町の稲山事務所に行く五輪。「何かわかったか」「どうも、市議3人と落合社長のところへ行った4地区の後援会長らの動きは別のようなんです。4地区のことはまだわかりませんが、市議の動きは半日市の鯛沼市議が中心人物のようです。ただし、どうも背後に権木派が動いた気配は感じられません。それで鯛沼には「第一秘書が到着次第、すぐ行くから」とヤツの会社で待たせてます」「ほう、第一秘書」「鯛沼は半日市で繊維会社をやってまして、残りの市議もみんな繊維関係の会社関係者です」
五輪に事情を話す鯛沼。「実は3日前、大蔵省の中京地方局長に我々工業会の幹部が呼ばれました。局長室に行くと、局長ともう一人、音丸と言う人がいて」「この音丸は今度この選挙区から立候補する宮原派の大蔵官僚だ」「はい。局長は国の繊維不況対策特定地域に北中京郡が指定されたければ、音丸を支持し、繊維工業会で2万票集めろと。有無を言わせないやり方に私らは従うしか」
「汚いことしやがる。鯛沼さん、工業会の幹部を集めて、明日にでも東京へ行きましょう。稲山が中村幹事長と商工大臣に引き合わせます」「え」「バカげた脅しです。繊維不況救済は商工省の所管で大蔵省は関係ない。まして一介の課長補佐上がりの音丸が逆立ちしても地域指定の力など振るえない。中村幹事長が保証人となり、商工大臣に指定地域の約束をさせます。商工大臣は中村派の大幹部です。稲山は中村の懐刀です。稲山の力を信じてください」「私はなんとバカなことを。五輪さん、私は死んだ気で稲山先生に尽くします」