さいとうたかを「ゴルゴ13(617)」 | ロロモ文庫

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外交伝説の男

永田町で話し合う外務省の田所と小野寺。「フロリダ州知事は我が国の新幹線導入計画撤回を決定した」「外務大臣がトップセールスまでして売り込んだというのに」「まあいずれ知事が代わればチャンスはあるだろう。それよりベトナムは大丈夫だろうな、小野寺君」「もちろんです。ベトナム鉄道総公社は、日本の新幹線方式の採用を、ほぼ公式に表明しています」「しかし昨年の国会で、高速鉄道案は否決されてるじゃないか」

「あれは予算との兼ね合いです。ハノイとホーチミン間、1600キロを結ぶとなれば、予算は五兆円にのぼります」「ざっとベトナムのGDPの6割だな」「それだけにベトナム政府としてもすぐに着工というわけにはいかない。しかしベトナム南北両端に位置するハノイとホーチミンを結ぶのに、現在の鉄道では29時間もかかるが、新幹線なら10時間に短縮されるわけですから、着工は時間の問題です」「そううまくいくかな」「え」「雲南省昆明を経由して、ベトナム鉄道と乗り入れるパンアジア鉄道の本当の狙いはなんだと思う」「中国が動いているんですね」

「おそらくな。中国はアジア各国をパンアジア鉄道で結ぼうとし、各国キーマンとのパイプを作っている。ベトナムも例外ではない。そしてその先に見据えているのは」「ベトナム新幹線の中国による建設」「そう考えるのが自然だろう」「そんなことが許されるのですか。そもそも中国新幹線はJR東京のE2型車両を川口重工から輸入してそれをベースに製造されたものじゃあありませんか」「あの国はそういう国だ」「……」「我が国はベトナム政府首脳を押さえておけば安心だと思っている。しかしどうやら中国は別のルートにアプローチしているらしい」「何らかの情報提供はあったのですね」「このままでは日本の未来にあるのは敗北の二文字だ」「……」

話し合う小野寺と片桐。「日本に新幹線の必要性を訴えさせておき、いざ決定となるとその直前に盗みとる。中国のやりそうな事だ」「しかし別のルートということは誰か黒幕がいると」「だろうな、俺達は何としてもその存在をつかみ、中国の動きを封じるんだ。日本には技術しかないんだ。技術を売ることでしか豊かな国であり続けることはできない。俺達の手に日本の国益がかかっていうるんだ」

「しかし、中国はベトナムに食い込むことなんてことがありうるんでしょうか」「俺もそう思っていた。中国とベトナムの関係は微妙だ。1979年には中越戦争が勃発し、中国は一か月で撤退したものの、ベトナムには遺恨が残っている」「……」「カンボジアで大量虐殺を行ったポル・ポト政権を叩くために、ベトナムはカンボジアに侵攻した。これに対し、カンボジアの友好国であった中国が、ベトナムへの懲罰行為として侵攻した。ところがベトナム軍はベトナム戦争で戦闘慣れしていた上、ソ連から最新兵器を供与されていた」「……」

「結果、中国軍は敗走したは、遺恨は残った。その後、中越国境紛争なども起き、双方の敵対感情は強まっていた。この歴史が我々の盲点だったのだ。ベトナムに物を売り込むのに中国を視野から外してきた」「まさかベトナムが中国を受け入れるとは。今でも中国とベトナムは西沙諸島や南沙諸島の領有権問題を抱えていますし、中国がベトナムの目と鼻の先の海南島を空母基地にする計画も進んでいます」

「しかし両国は近年、関係改善を図っているのを忘れてはならない。トンキン湾の石油・天然ガスの共同開発を計画するなど、過去の遺恨は払拭されつつある」「それにしても鉄道関係の黒幕まで手を伸ばしていたとは」「中国を侮ってはいけないのだ。中国新幹線は時速486.1キロという世界最高の速度を記録している。これから日本は新幹線を売るために常に中国との競合を余儀なくされるだろう」小野寺はパイプ役を務めているのが、伝説の外交官と言われ、私利私欲のために中国に走った桐嶋であることを突き止め、ゴルゴ13に桐嶋を消す事を依頼し、ゴルゴ13は実行するのであった。(2011年8月)