ローマに咲いた恋 | ロロモ文庫

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高木は絵の勉強のためにローマに行き、歌の勉強のためにローマに行った千乃と恋仲になるが、自分の絵が全く認められず、千乃が歌手の夢を捨てて自分を捨てて日本に帰国したために、捨て鉢な生活を送っていた。しかし秋月という男は亡くなった妻が描いた絵に似ていると言う理由で、高木の絵を購入する。それがきっかけで高木は帰国し、秋月の厚意で銀座で滞欧作品展を開催する。

高木は自分の絵を熱心に見つめる娘に名前を書いてくれと記帳簿を差し出すが、娘は一礼して去ってしまう。作品展で千乃と再会する高木。「しばらくです」「見に来てくれたですか」「ご立派になっておめでとうございます」バーで飲む高木と千乃。「歌も落第。結婚も落第。私ってバカな女ね。親のすすめで見合い結婚なんかしてしまって」「幸せじゃないんだね」「楽しくないことだけは事実ね。ローマでお別れしたことを怒ってます?」「怒ってるだろうね」ホテルで千乃を抱く高木。「今夜は帰さないよ」「ダメ」「帰さない。今夜は復讐してやる」

高木は野村由子と言う女性からの手紙を読む。<このたびはおめでとうございます。と申しましても私がどのような女性か見当がつかないと思います。絵の知識のない私ですが、あなたの作品には心を打たれる思いです。私もイタリアに参る予定なので、あなたの絵は身近に感じます。私はあなたから記帳を差し出され、顔を赤くして逃げ帰った女です。失礼をお許しください>

箱根に高木と不倫旅行に出かける千乃。「ローマにいた時は寂しかった。でも今の私はもっと寂しいのかもしれない。なぜかしら。あなたもなぜそんな顔をしてるの」「なぜだろう」また由子からの手紙を読む高木。<私は8年前からあなたを知ってました。あなたが美術学校にご在学の時でございます。先日展覧会のポスターを見て、懐かしく嬉しくなって、展覧会に駆けつけた次第でございます>

高木は由子をイメージした絵を描くようになる。この絵のモデルは野村由子って人でしょうと高木に聞く千乃。「どうしてそれを」「箱根のホテルで見たわ。あなたの上着をハンガーに掛ける時」「君は読んだの?」「読んだわ。女は女のことに敏感だから」「今日はつきあわないよ」「冷たいのね。私、前田と別れるわ」「僕は関わり合いになるのはイヤだからね」「私、あなただけは」「よしてくれ。もう一度ローマの噴水で顔を洗って、出直してくるんだな」

私は前田を知っていると高木と千乃に言う秋月。「勿論、あなた方の関係も知っています」「……」「前田さんは私が高木君の後援者と知って、私のところに来て、あなた方のことを随分ズケズケと言いました」「前田はそういう人です」「奥さんを探しとられましたよ。高木さんは旅行中だと言うと、やっぱりそうかとおっしゃって」「……」「どうだろう、高木さん。私は私生活まで干渉するつもりはないが、あなたも大事な時だからね。週刊誌の種にでもなったら損だ」「ご心配かけました」

外務省を訪ねた千乃は外国人のシスターと少女の乗ったタクシーに乗ろうとするが、そこに時計が落ちているのに気づき、外務省に戻る。「外国人のシスターはどこに」「参事官の梅田さんのところです」シスターに時計を渡す千乃。少女に時計を渡すシスター。千乃に一礼する少女。

この方は聾唖者ですと千乃に言う梅田。「ヨーロッパの福祉施設を見学するためにローマに行きます」「お話することはわかるんですか」「彼女は頭がいいので唇の動きでわかります。お名前は野村由子さんと言います」「野村由子?」絵描きの高木さんを知ってるかと千乃に聞かれ、うなずく由子。

由子と外務省で会ったと高木に言う千乃。「あの人はどういう人なんだ」「キレイな人だわ。だけど気の毒に」「気の毒?」「お会いになればわかるわ。梅田さんからお住まいを聞いてきたの」「聖マリア愛護園って何だろう。保母さんでもしてるのかな」「そうよ。聾唖者の世話をしてるの。野村由子さんも聾唖者なの」「……」「飲みましょう」

聖マリア愛護園に行き、由子と会う高木。「突然伺いまして」一礼する由子。「近くヨーロッパに行かれると聞きましたので、こんなものを持ってきました。スリッパです。外国のホテルではスリッパがありませんから」「……」「明日、行かれるんですね」うなずく由子。「あなたのスケッチを描かせてください」

黒板に向かう由子。<八年前、私があなたにお逢いしたのは国立ろうあ者更生指導所でした。あなた様は絵の指導に来て下さいました>「そうです。思い出しました」<あの時の御親切忘れません。あれ以来、私は耳も聞こえない、口も利けませんけど、美しいものを美しく見る目だけは開けました。ありがとうございます>感極まって涙する早川。由子はローマに向かって旅立つ。

高木は一心不乱に由子の絵を描き続ける。何枚描いたら気が済むんですと聞く秋月。「ダメなんです。この人の精神的美しさが描けないんです」「あなたが絵を描ける時は、あなた自身の魂が洗われている時でしょうね」「そうです。僕には描けないかも」「その後も会ってるんですか」「会ってません。一度も」「あなたは千乃さんに会ったほうがいいかもしれない。迷いを吹っ切るためにも」

あなたは由子さんが好きなんでしょうと高木に聞く千乃。「好きとかそういう問題じゃないよ」「あの方、ローマで入院なさったんですってね。梅田さんに聞いたの」「どうして」「理由は知らないけど、倒れたそうなの」聖マリア愛護園に電話して、由子が入院したことを確かめる高木。

「命にかかわるような病気なのかしら」「可哀そうに。慣れない異国で」「寂しかったわ。外国での生活は心細かったわ。そういう時にあなたに会ったんだわ。あなただって、私なしには生きられなかったもんね」湖畔のホテルで高木と最後の夜をともにした千乃は服毒自殺する。あなたはローマに行ったほうがいいと高木に言う秋月。「このまま日本にいても絵は描けませんよ」

ローマの病院で由子と会う高木。「ひどい目に会いましたね」微笑む由子。「早くよくなってください。あなたは早く日本に帰ったほうがいい。でも僕はいつ帰るかわかりません、じゃあお大事に。よくなることを祈ってます」数日後、由子の病気は治ったと高木に言うシスター。「もう日本にお帰りになるのですか」「明後日帰ります。明日由子に会わせてあげます」「ありがとうございます」

ローマ市内をデートした高木と由子はカフェに行く。手帳に書く由子。<あなたはいつ日本に帰るのですか>「わからない。いつ帰れるか」<ローマにいると楽しいのですか><多分寂しいでしょう><私はどこにいても寂しいのです>「元気を出してください。元気で楽しく暮らしてください」<私は元気でした。でもローマに来て寂しい女だとわかりました>「由子さん。僕はあなたを日本に帰したくない。今、僕が言ったことがわかったのですか」

うつむく由子。高木はメモ帳に何か書こうとするが、由子はそれを止める。<私は片輪です>「そんなことは問題じゃない」<あなたは僕をどう思いますか><あなたの絵は美しいです。美しい心を信じます>「ダメだ。僕はあなたのそばに近寄れる人間じゃない」「……」「もう時間ですね」「……」「その手帳を僕にください。あなたの思い出に」手帳を高木に渡しうつむき泣く由子。「僕はあなたの肩を抱いて、あなたに僕の胸で泣いてほしいと思う。でもそれができない。さようなら」高木は由子の乗った飛行機を手帳を持って見つめながら、日本に帰る日が来たら、由子の絵を完成させようと心に誓うのであった。