さいとうたかを「ゴルゴ13(542)」 | ロロモ文庫

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冤罪許すまじ

(ペンシルバニア州ジョーンズタウン。人口2万5000人の小さな町は過去何度も水害にさらされてきた。中でも1889年5月31日に起こった大洪水は、アメリカ史の大惨事として今も語り継がれている。数日続いた激しい嵐により、東部のコネモウ谷にあったダムが決壊し、2209人の死者を出したのだ)

ペンシルバニア州ピッツバーグで10年前のジョーンズタウンで起こった殺人事件について調べる弁護士のハリー。(1995年、ジョン・ドナヒューは町民13人の強盗殺人事件で逮捕された。凶器は発見されず、ドナヒューは無罪を主張したが、証人多数、警察での自白などにより、有罪が確定。現在、死刑囚としてクリーン刑務所に収容中)

ドナヒューに面会するハリー。「僕はあなたの新しい弁護士、ハリー・リックマンです。自白は警察に強要された、とあなたは訴え続けてますね。僕はあなたを助けたいのです」「お前のような若造の弁護士にそんな奇跡が起こせるのか」「僕なりに頑張って、あなたの冤罪を証明してみせます」「へん、今まで何十人もの弁護士が同じことを言ったが、みんなだめだったぜ」「これから当時の証人に会ってきます」「ふん。勝手にしろ」

(ジョーンズタウンが水害にあいやすいのは街全体が丘陵地の谷間にあり、大きく蛇行した細い川が集まっているからだ。またペンシルバニア州は冬は厳しく夏は暑い。特に春には吹雪の日と夏日が交互に訪れるため、上空の空気は不安定となり、激しい吹雪や嵐を引き起こしやすいのである)

久しぶりにジョーンズタウンに戻るハリー。(狭い視野しか持たない狭い田舎町。そしてあの事件が起こりドナヒューが逮捕された。僕は町を出てピッツバーグ総合大学に入った。町を出たかったのもあるが、ドナヒューの影響は大きい。ドナヒューが横暴なのは犯罪者だからじゃない。彼を見かけだけで判断した人間に絶望してるからだ。僕とドナヒューは根本のところで同じなんだ)

父のグンターと会うハリー。「父さんはドナヒューが殺したとこりろは見てないでしょう」「だが殺されたのは全てドナヒューが恨みを持っていたやつばかりだ」「でもドナヒューが恨んでいない人間がこの町にいたかい」「……」「みんなよそ者扱いして、色眼鏡で見ていたじゃないか。最初に取り調べをした警察官たちもそうだ。最初からドナヒューを犯人と決めつけていた」「胡散臭い流れ者を警戒するのは当然だろ」「父さんはこの狭い町で一生過ごしているから、世界の広さを知らないんだ。だから都会育ちの母さんに逃げられたんだ」「ハリー、父親になんという口をきくんだ」「……」

「ドナヒューにはアリバイもない。自白もした。犯行時間に被害者たちの家の近くをうろうろしてるのを目撃されている」「犯行現場を誰も目撃していないんでしょう。凶器も見つかっていない」「金はどうだ。奪われた金はあいつのトレーラーハウスの敷地内に埋まっていたんだぞ」「そんなもの誰にでも埋められるじゃないか」「いいか、ハリー。これ以上ドナヒューに関わるんじゃない。わかったな」

ローレルリッジ公園に行くハリー。(あの時ドナヒューは姿をくらませた。あの日はすごい雨で警察の捜査も思うようにならなかったと言う。だがここで土砂崩れに巻き込まれ、足を骨折して這って出てきたところをパトカーに発見されたという。逃走したこともドナヒューに裁判には不利になった。だが、ああいう状況では罪を犯してなくても逃げるんじゃないだろうか。僕はドナヒューは冤罪だと信じている。なら誰が13人も殺したんだ。奪った金を埋めたということは犯人の動機は金ではないということか)

そこに現れるゴルゴ13。「弁護士のハリー・リックマンだな」「あなたは誰です」「トウゴウ7という者だ。お前は10年前の連続殺人事件を調べてるそうだな。頼みがある。ジョン・ドナヒューの容疑を晴らしてくれ」「え」「そのための資金はお前の口座に振り込んである」「あなたはドナヒューとどんな関係」「それを知る必要もない。お前の仕事は一日も早くドナヒューを釈放させることだ」

裁判に勝てる証言が出てきたとドナヒューに言うハリー。「あなたもご存じでしょうが、ジョーンズタウンは小さな田舎町で、人々も閉鎖的です。外から来た人間に対して心を開いて話しません。でも土地の人間の私には話してくれます」「そうか。あんたはいい弁護士だ」「ここまで私が頑張れたのは十分な調査費用があったからです。トウゴウという東洋人なんですが」「東洋人?」「恐ろしいほどの威圧感のある人でした」「そうか。その男が金を出してくれたのか」冤罪事件の被害者として釈放されるドナヒュー。

ドナヒューと話しあって、当時の裁判の証人に対する損害賠償を見送ることにしたとグンターに言うハリー。「でも交換条件として証人たちに謝罪してほしいと言ってる」「謝罪?あの男にか」「よう、グンター。まさか弁護士先生の父親とはな。さあ、証人をこの家に集めてもらおう」「断る。貴様は不利な証言をしたことを恨んで復讐するつもりだ」「父さん、まだそんなことを」銃でグンターを殴るドナヒュー。「ドナヒュー、何をするんだ」「代わりにてめえが証人どもを集めてこい」「どういうつもりだ」

愚か者めとハリーに言うグンター。「お前の母親がどうして逃げたと思う」「え」「レジーナはその悪党と密通していたのだ」「えっ、母さんがこのドナヒューと」「都会育ちのレジーナは閉鎖的なこの町に飽き飽きしていた。そしてレジーナはそいつのトレーラーハウスで奴が殺した町の人の写真を見つけた」「なんだって」「レジーナは命の危険を感じて逃げ帰ってきた。わしは金を渡してレジーナを逃がした」「なぜ通報しなかったんだ」「どうしてレジーナがその写真を見たか、衆人環視の法廷で証言しろ、と?」「……」

「くくく、やっぱりあの時、あの女に見られてたのか。てめえらが世間体を気にする田舎者でよかったぜ」「ドナヒュー、貴様という男は」「てめえは真犯人を助けたのさ。俺が冤罪を主張してたのは、ちょっとでも死刑の執行を延ばせそうだったからさ」「あのトウゴウって東洋人もグルだったんだな」「あの男か。あの時は驚いたぜ」

語るドナヒュー。「嵐にまぎれて、凶器を森の中に埋めて逃げようと自然公園に行った時、あの男は脳天を一発でぶち抜いてるとことに出くわしちまった。その時、土砂崩れが起こった。後で殺された男の顔を見たのは、麻薬密売人の元締めが逃走中、って新聞記事だった。今も逃走中になっているが、本当は殺されて俺の拳銃と一緒に土砂崩れの下に埋まっているのさ」「……」

「トウゴウは刑務所から出れない俺が死刑を伸ばすためにある事ない事しゃべるんじゃない心配だったんだ。くくく、国から慰謝料をとるだけでなく、あいつを強請っても金が取れそうだぜ。だが、その前に俺を蔑んで有罪にした証人どもに復讐させてもらう。さあ、証人を呼ぶんだ」「この悪魔め」「言うこと聞かねえと親父の頭をぶち抜くぞ」

脳天を撃ち抜かれて即死するドナヒュー。「ハリー、一体何があったんだ」「父さん、偏見の目で見てたのは僕の方かもしれないよ」(囚人を刑務所から助け出したいと思っているのは、必ずしも支援者や味方だけじゃないんだ。完璧なセキュリティを誇る刑務所の中の囚人には手出しできない。ドナヒューの言った理由でトウゴウはドナヒューを釈放させて、彼を殺したのか。彼は何者なんだ)「ハリー、これ以上、深入りせんほうがいい。これはわしらの力が及ぶ問題じゃない」「そうだね」(2005年9月)