雄山の危機!?(2)
海原がいないと動揺する中川にうろたるなという山岡。「中川、なんてざまだ。今まで雄山に全てを任されたお前がうろたえてどうする」「実は我々の手に負えないことが一つあるんです。先生は今回マトンを用意されましたが、5歳か6歳のマトンをと注文されたのです」「ぬう、年寄りのマトンか」「今日のお客様はアジア地域の方々です。宗教によって食べられるものが限定されます。でも羊肉ならたいていの宗教が大丈夫ですから、この肉を選んだと思いますが、こういう時は癖のない子羊のラムを選ぶのが定石です。しかし、年をとったマトンは肉が固いし、第一、においが強烈です。この臭みに辟易して食べられないと言う人が多い。なのにわざわざ先生は年寄りのマトンを注文したんです」「ぬううう、雄山の奴、何を考えているのか。む、おそらく」
マトンから臓物を抜かせる山岡。「その腹の中にネギを丸ごと束にして、タマネギとトマトを丸ごと詰め込めるだけ詰め込む。詰め込んだら、背中を表にして、細身のナイフを突き入れて、そこにニンニクを突き入れて、そこにニンニクを一粒ずつ深く入れる。表面に岩塩、コショウ、ナツメグ、タイムを粉にしたものを十分刷り込む。これで準備完了。あとはオーブンに入れる」「む。これだけでいいのか。これでオーブンで焼けば、マトンの臭みが強くなるだけで、ニンニクやネギを詰め込んだところで臭みはどうにもならないと思うが」「これでいい。徹底的に焼く。弱火で最低5時間は焼き続ける」「ぬ。そんなに焼いたらぱさぱさになるぞ」「それが狙いだ。その代わり焦がすな。表面の皮はぱりっと。しかし焦がしたらダメだ。じっくり焼け」
今日の主菜はマトンということで献立を組み立てたと言う中川。「前菜としてアワビの酒蒸しオイスターソース風味。干しナマコ、薄切り煮込み葛あんかけ。うずらの腿のから揚げ、梅干しの裏ごし添え」「この組み立て、アジア色を出そうと苦労している。それじゃ美食俱楽部に来てもらう理由がない。ここでは日本料理の真髄を味わってもらう」