男の顔は履歴書 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

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立ち退きを迫られるボロ病院の院長である雨宮は、看護婦と話し合う。「最初は工事場の騒音で頭がどうかなりそうだったけど、あと三日ね。先生は島の診療所のお話どうするつもり?」「島の保険医。それが俺にどんな意味がある」「先生。先生ほどの腕の持ち主がどうしてこんな」病院に交通事故のあった重症患者が運ばれてくる。うちではこれは手術できないと顔を顰める雨宮であったが、患者の顔を見て、崔文喜とうめく。

18年前の昭和23年、三国人団体の九天同盟は全国から助っ人を集める。助っ人に怪気炎をあげる九天同盟会長の劉成元。「日本は戦争に負けて、法律も道徳の力も弱り切っている。今こそ日本人をズタズタにしてやる。日本人が今まで俺たちにしてきたようにだ。奴らを叩きだして、この新生マーケットに俺たちの大娯楽センターを作るんだ」

雨宮という医者が新生マーケットの地主で俺たちが狙っている男だと助っ人たちに教える劉。雨宮と聞いて顔色を変える助っ人の一人の崔文喜。「東京の大学から直接戦争に行ったんで、あまりこの町では馴染みは薄いが、親父の跡を継いで開業してる奴だよ」

看護婦のマキを抱く雨宮。「あなたはどんな女の人と結婚なさるの。きっと立派なお嬢さんと」「俺はお前とこうしているだけでいい」「好き。私、先生のお妾さんになってあげる」「馬鹿な」「私は先生の心がわからない」「俺はお前しかいない」「嘘」「戦争は俺の心を殺した。この手で沢山殺した。負けた途端に全部嘘だ。確かなのがお前だけだ」

雨宮の病院に押しかける九天同盟の徐延福。「九天同盟の劉成元が早く会いたかっている。来い」「劉成元?それはどこかの国の王様かね」「なんたと」気色ばむ徐を押さえる崔。「まあ、今日はこれくらいにしとこう」

朝鮮キャバレー「ナイアガラ」にいる劉のところに報告に行く崔と徐。劉はあの医者はどうだったと聞き、徐はもう少し締め上げればなんとかなると答え、崔はあの日本人は他の日本人と違うと答える。「崔、あの医者を知っているのか」「あの医者には金を払って出てもらった方が無事だね」「金?そんなもの払うならお前たちを呼ばん。見てみろ、いい店だろ。これも日本人から巻き上げてやったんだ」ホステスの李恵春と踊る崔を見ながら呟く劉。「あいつは日本のムショに入っていて、まだぼけている。だが暴れさせると手の付けられないって噂だ」

お前みたいな女がどうしてこんなところにいると恵春に聞く崔。「マスターに拾われたんです」「劉成元にか。危ないもんだ。そのうち」「……」「もう、あったのか」「……」「国に帰れよ」「私の父ちゃんも母ちゃんもずっと内地。日本に住みついていたんです。知らないんです、国を」「俺と同じだな。両親は死んだのか」「焼夷弾で。弟も妹も」

徐は散髪代にケチをつけて散髪屋で暴れまわり、米国人相手のパンパンに悪態をつく凶暴な男であった。徐たちの傲慢に耐えかねる愚連隊やパンパンたち。「でも商店街の奴らは俺たちの味方はしねえ。九天同盟は助っ人を集める。警察も三国人には弱腰だ。どうやって戦えばいい」「こうなったら小野川一家に頼むんだな」「ヤクザに頼むのかい」「こういう時のために俺たちはヤクザに高いショバ代払っているんだ」

小野川は相談する相手が違うと愚連隊たちに言う。「俺はもう昔のような力はないんだぜ。さぞ頼りがいのない奴と思うかもしれんが、戦争で若い奴のあらかたをなくした今の小野川一家じゃ勝ち目はないんだ」「親分にそう言われたんじゃ、もうおしまいだね」「お前さんたちが頼むなら、医者の雨宮さんだ」「ああ、あの地主の、あの偏屈者の若医者に何が」「違うよ。あいつはただもんじゃない。肝っ玉も腕っぷしもね。うちの若いもんがあそこの看護婦に絡んで、あっという間に殴り倒されたことがあるんだ」

商店街の連中は雨宮になんとかしてくれと頼むが、雨宮は断ると言う。「医者に喧嘩しろってのは無理な話だよ」「知恵を貸してくれりゃいいんです」「法律以上の知恵なんて俺にはないね」そこに九天同盟がナイアガラの女を引き連れて、健康診断を受けさせろと要求する。病院にいた愚連隊のチンピラと九天同盟のボンクラがいざござをはじめ、それに巻き込まれた恵春は頭に怪我をする。

恵春の治療をする雨宮に結婚してくれというマキ。「どうしたんだ」「怖いんです」「何が怖いんだ」「先生が急に遠くに行く気がして。先生が三国人たちに愚連隊がやられている時の冷たい目」「マキ。今の君が俺にどんなに大事かわからないのか」

そこに恵春の容態を心配した崔がやってくる。「この子は大丈夫なのか」「しばらく安静にすればいい。君はこの子の何なんだ」「戦場に駆り立てられたとき、教官ではなく人間としてただ一人尊敬のできた人、雨宮軍医大尉殿のような。人間がみんな雨宮大尉やこの子のような人間ばかりなら、この世はきっと素晴らしい」「買い被りはよせ、柴田」

「崔と呼んでください。崔文喜。僕はもうニセモノの日本人じゃない」「戦場で人間同士の殺し合いのバカらしさを嫌というほど知った君が、どうしてこんな」「あの戦場では確かにそうだった。でも、今は僕は僕たちのために戦っている」「この子もか。新しい恨みつらみを力ではらそうとしたら、新しい恨みつらみが芽をふいて、また同じことの繰り返しだ」「じゃあ、あなたは劉成元の言いなりにマーケットを渡しますか。どうです」

終戦直前、沖縄戦線で、柴田たちを指揮した雨宮は、柴田と生き別れになっていた。崔文喜の手術を終えて手術室をでた雨宮に話しかける少女。「とうちゃんは?」「君は?」「崔晴子です」「母さんは」「東京に行ったんです。父ちゃんには内緒だけど、韓国に帰れるように大使館に行ったんです」「母ちゃんは日本人か」「うん」「君も父ちゃんの国に行きたいか」

床屋の娘は九天同盟のボンクラに暴行されて殺される。お前ら泥棒猫だと怒鳴る床屋に、お前ら日本人は俺たちの国で何をやったと怒鳴り返す劉。「女の一人や二人がなんだ」リンチをくらって雨宮のところに担ぎ込まれる床屋。そこに東京から戻ってくる雨宮の弟で学生の俊次。

「この町はどうなっているんだ、兄さん。一度や二度、戦争に負けたからってどうしたというんだ。悪いことは悪いこととはっきりしたらどうなんだ」みんな食べることに精一杯なんですよと怒鳴るマキ。「もっと誇りを持てばいんだ」「誇りでは腹一杯になりませんよ。あんたみたいなお坊ちゃんにはわかりませんよ」「そういうバラバラな生活感情が、戦後のみんなをダメにしてることがわからないのか」「あんた、そんなにバラバラが嫌なら、まず兄さんと仲良くしなさいよ」

何か行動すべきだと雨宮に訴える俊次。「俺に殴り込みしろと言うのか」「そうじゃないけど、誰かが行動を起こすべきだ。それにみんなついてくる」「ついてくるのは得意だからな。日本人は。そして裏切りも」「兄さん。町はどうなってもいいのかい。それじゃ敗北主義だよ」「争いは沢山だ。まして殺し合うのはあの戦争だけで沢山だ」

「まるで戦争に行ったことを特権のように言うけど、俺だって戦争に行って暴れたいよ。日本が勝っていたら、今ごろは兄さんもアメリカに行って、ハリウッドの女性に尻ふりダンスでも躍らせていただろうよ」「馬鹿。戦争がどんなものか知らないで」「見損なった。卑怯者なんだ、兄さんは」

診察に来た恵春がナイアガラで働いていると聞いて、よくここに来られたなと怒鳴る俊次。「君の仲間が娘を殺したあげく、その父親を半殺しにしてここに担ぎ込まれたというのに」「……」「帰れ。二度と来るな」この人は患者ですと怒鳴るマキ。

病院を飛び出した俊次は愚連隊のリーダーとなり、ナイアガラに乗り込み、劉と対峙する。「何の用だ」「マーケットから出ていけ」「いいか、この喧嘩はお前たちが売ってきた喧嘩だ。俺たちはそれを買うだけだ。この喧嘩の責任は全部お前たちにある」俊次をぶちのめしながら囁く崔。「あんた、雨宮さんの弟だってな。頼むから出て行ってくれ」朝鮮キャバレーから叩き出される俊次たち。

傷だらけで横たわる俊次に、あんなことはやめてくださいと訴える恵春。「そっちが先にやめるんだね」「それじゃいつまでたってもおしまいが来ないわ」「……」「私であなたの気すむなら、メチャメチャにして。それでおしまいにしてちょうだい」「ようし。やってやる」俊次は恵春を抱こうとするが、俺は汚いと自嘲する。「私、あなたに最初に会った時から思ってました。あなたはいい人だって」「君は美しい」そこに九天同盟のボンクラが現われ、俊次は囚われの身となる。

意識を取り戻した崔は、雨宮が自分を手術したと知って驚く。「雨宮さん。助けてください。僕は死ねない。妻のためにも、娘のためにも」「その可愛い娘さんが来てるよ」父ちゃんと崔に泣きつく晴子。「馬鹿。泣く奴があるか」

考え込む雨宮。(俺はあの時、マーケットのために最後は立ち上がった。その結果俺は監獄に入った。マキが面会に来たことがある。『九天同盟がいなくなったと思ったら、今度は小野川一家だわ。もっと口惜しいのは、町の人たちが、先生のことを』マキは町のことをあれこれ話した。そんなことより金網を隔てたマキに触れることができないのが切なかった。そして俺はマキが以前のマキでないことに気づいて、うろたえた。あの時、俺はマキを愛していたのだ『先生。これだけは信じて。私が愛したのは先生だけ。さようなら』)

俊次を人質にとった九天同盟は、雨宮にマーケットの権利書を要求し、出さないとマーケットを滅茶苦茶にすると宣言する。雨宮はマーケットの権利書を劉に渡して、俊次を返してくれと頼むが、劉は白紙委任状がないと俊次は返せないと言う。雨宮にこんな形で再会したくなかったと言う崔。「しかしお互いに生きていてよかった」「でも弟さんは勇ましすぐましたね。雨宮さん、このマーケット戦争は避けられませんよ」「降伏か、死か。だが俺は俊次さえ帰ってくれればいい」

恵春に雨宮さんの弟を助けたいかと聞く崔。頷く恵春。雨宮に電話する劉。「明日の12時まで待ってやる。それを過ぎたらマーケットに殴りこむ。こっちはナイアガラを襲われた報復だ。大義名分はこっちにある。血の流れる市街戦はあんたも好かんだろう。たった一人の弟さんの命も救いたいだろう。あんたが白紙委任状を寄こすしかないね」

崔と恵春は拷問を受けてボロボロになっている俊次を助け出して、トラックに乗せて逃走しようとするが、俊次と恵春は拳銃に撃たれて殺され、崔は傷だらけで雨宮の病院に逃げ込む。「結局、僕はどっちの側にもつけませんでしたね」「柴田」「崔と呼んでください」「お前はいつでも俺にとって柴田だ」明日の12時までにマーケットを引き渡せと怒鳴る徐。「このマーケットは我々の者だ。明日昼きっかりに襲撃するぞ」

雨宮の元に現れる小野川。「先生はやる腹だね。今こそあっしらも手伝わせてもらいますぜ」「折角だが断るよ。俺は俺一人の恨みで立つ。そして俺も死ぬ。これ以外果てしない暴力と憎悪の渦を断ち切る方法はないんでね」「……」「君に頼みがある。あの怪我人だがね」「あっしが引き受けました。安全なところにお連れします。それから、先生。これだけは持っていってください」雨宮に拳銃を渡す小野川。

俊次さんと同じことをするんですかと雨宮に聞くマキ。「後のことは君にまかす。それから崔の看護も」「それで終わりですか。ひどいわ」マーケットから逃げ出す商店街の連中。昼過ぎに襲撃した九天同盟にただ一人立ち向かう雨宮。「貴様ら、俊二の仇だ」激しい流血戦の末、倒れる徐と劉。生き残った九天同盟のボンクラとともに警察に護送される雨宮はマーケット戦争は終わったと呟く。

病院に現れるマキ。「すいません。すぐ来れなくて。先生」「雨宮さん。僕たち、結婚しました」「先生。先生に残された私、仲間の裏切り者にされたこの人。私はそれを看取る看護婦。いたわりあった二人は平凡に結ばれました。どこにでもある夫婦のように。子供が産まれました。こんな可愛い子が。幸せです。今は。この人を助けてください」「大丈夫だ、父ちゃんが死ぬもんか、マキ」

「あなた。東京の大使館に行ってきたのよ。本当は韓国に帰りたいんでしょう。あなたの国ですもの。晴子だって大威張りで学校に行けるわ」「馬鹿だな、お前は。俺はお前と晴子と三人一緒に暮らせるなら、どこだっていい。雨宮さん、僕たちは、あの戦場で、あのマーケットで、そして今」「そんなものさ。人間の出会いなんてそんなものさ」

マキと崔と晴子を見て、俊二と李恵春もこういう家庭を持てたかもしれないと考える雨宮。崔の症状は悪化し、再び手術を受けることになる。君たちは手術室から出て行けと雨宮はマキと晴子に言うが、マキは残ると言う。「ここでこの子にも見せてやります。自分の父親が命と戦う姿を」晴子を見つめて、雨宮はよしと頷くのであった。