作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(516)」 | ロロモ文庫

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新聞戦争(4)

説明する栗田。「バラの香りの甘いシロップの中に、チョコレートをそうめんのような細い形にして泳がせたものなんです。実はある人の本に最高のデザートとして書いてあるのを読んだんです。それを作っていただきたいんです」

「むうう。チョコレートは冷たいシロップの中では固くてぽきぽきになる。細ければ俺てしまうし、太ければただの棒状でおもしろくない。かと言ってシロップの温度を上げるとチョコレートは融点が低いから、たちまち溶けてそうめんの形を保てない」「無理ですか」「山岡、これは究極のチョコレートの前哨戦だな」「究極のチョコレート?」

説明する山岡。「バカな日本人はフランスやベルギーのチョコレートをありがたがる。でもチョコレートの原料のカカオの実はフランスやベルギーではとれない。熱帯地方の産物だ。日本でもやる気にさえなれば美味しいチョコレートができるはずだ。原田の店は和菓子の老舗だが洋菓子も作っている。ある時、究極のチョコレートの話をしたら俺がやると」「俺は九州男児だ。やると言ったらやる。チョコレートそうめん?やるぜ」

チョコレートの専門家の日新化工の鈴木を呼んで来る原田。「まずチョコレートの基本的なことをおさらいだ。チョコレートの原料のカカオ豆はラグビーのボールのような形のカカオの実の中に40~60個入っている。豆のまわりは白い果肉に包まれていて、発酵させると果肉は溶けて流れてしまい、豆だけが残る。その豆を乾燥させて焙炒し、すりつぶしたものがカカオ・マス。カカオ・マスから搾り取ったものをカカオ・バター。搾り取った残りの部分をカカオ・ケーキといい、それを細かく砕いて粉にしたものがココア・パウダーだ」「なるほど」

「今日の試作品はガナシュ・タイプというもので、カカオ・マスっとカカオ・バターと砂糖とミルクが入ったミルクチョコレートに米や菜種の植物油、それにアルコールを加えた。こうすることで低い温度で溶けやすく、水になじみやすくなる。」それをノズルから押し出した。チョコレートそうめんをつけるシロップはモロッコ産の新鮮なバラの花を水蒸気蒸留して精油を取り出し、それを水に溶けるようにしたものを用意した」「よし、そうめんを入れるぞ」

「あら、柔らかいのはいいけど、一本一本が互いにくっついてほぐれないわ」「あらら、チョコレートが溶け始めた」「ガナシュ・タイプは水になじみやすい」「ぬう。実験失敗か」「鈴木、これはお前の工場で作ったのか」「ああ。3時間前だ」「ノズルはあるか」「あり」「ガナシュ・タイプのチョコレートは?」「予備がある」「原田、氷を持ってこい。鈴木、ガナシュ・タイプをノズルから押し出せ。原田、深皿にシロップを取って、氷を入れろ」「おお、きれいにそうめんになった」「ガナシュ・タイプは柔らかいから時間が経つと互いにくっつく。それを防ぐには直接シロップの中に出せばいいんだわ。それにシロップに氷を入れて温度を下げてあるから溶けないのよ」「食ってみろ」「何も言うことはないわ。完璧よ」

海原に一連の騒ぎの口直しにごちそうしたいものがあると言う大原と嶺山。チョコレートそうめんを運んでくる山岡と栗田。「むううう。この舌ざわり。心地よい溶け具合。そしてチョコレートとバラの香りの調和。完璧だ」「御本の中にチョコレートそうめんのことをお書きになってるのを拝見しました。チョコレートそうめんはどんなに凍り付いた人の心をも溶かす。鬼夜叉の思いをも鎮める、と」(ぬ。栗田さんの読んだ本は雄山の書いた本だったのか)鬼夜叉の思いをも鎮め、海原は正道に立ち返ったという大原と嶺山を許すのであった。