男はつらいよ 葛飾立志篇 | ロロモ文庫

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葛飾柴又の団子屋・とらやを尋ねるセーラー服の娘。「こちらに車の寅次郎って方がいらっしゃいませんか」寅次郎は旅に出てると言うつね。あなたはどこから来たのと娘に聞くさくら。「山形県の寒河江です。ちょうど修学旅行で出てきたんで」「私、寅次郎の妹だけど兄にどんな用なの」「私のこと、お兄さんから何か聞いていませんか。私、最上順子と言います」「さあ」

寅次郎の顔は知らないが、毎月正月になると母に手紙をくれると言う順子。「娘さんの学資の足しにって、必ずお金が入ってるんです」それは人違いじゃないのかと言う竜造。「あいつが金を送るわけねえもん」送られてくる金が500円と聞いて、やっぱり寅ちゃんかねえと呟くつね。そこに旅から戻ってくる寅次郎は順子を見て、「お雪さんだ」と呟く。「お父さんなの?」「え」雪は私の母だと泣く順子。

お雪を知ったのは17年前だと言う寅次郎。私は17歳ですと言う順子。お前はお雪さんと言う人とできてたのかと聞く竜造に、冗談じゃないと言う寅次郎。「俺はお雪さんに指一本触れてない。お雪さんはいつも赤ん坊を背負って働いていたんだ」「じゃあ、その赤ん坊がこの子か」「そうか。道理でお雪さんにそっくりだ」どうもすいませんと謝る順子に、謝ることはないと言うさくら。「お母さんにここに来ることを話したの」「いいえ。母は去年死にました」

とらやを出る順子にお金を渡す寅次郎。「帰りの汽車で友達とキャラメルでも食べろ」いいですと言う順子にもらっときなさいと言うさくら。「兄はお金持ちなんだから」「そうですか。じゃあ遠慮なく。さようなら」「困ったことがあったらいつでも来るんだぞ」「はい」「頑張るんだぞ」「はい」

山形県は美人の産地ですねと言うさくらの夫の博。本当に可愛い子だったねえと言うつね。俺も一目見たかったと言う社長。「兄さん。お母さんも美人だったんですか」「俺がお雪さんと会ったのは雪の降る晩だった。俺は寒河江を無一文で歩いていて、駅前の食堂に飛び込んだ。俺はお雪さんに鞄と腕時計を出して、これで何か食わしてくれと頼んだ。すると赤ん坊を背負ったお雪さんが「いいんですよ。困っている時はお互い様ですからね」と言ってくれ、どんぶり飯と豚汁を置いてくれたんだ。その時、俺にはお雪さんが観音様に見えたよ。雪の肌のような綺麗な人だった」

順子は自分の父親のことは何も知らないと博に説明するさくら。何か事情があるんだろうと言う竜造。でもお兄ちゃんは偉いわと言うさくら。「毎年手紙を書いてたんですって。お金まで入れて」「まあな。それが人の道だろう」なるほどと感心する社長。「その手紙の主の車寅次郎が私の父親に違いないと思い続け、はるばる山形県からこの柴又まで会いに来た。そこに四角い顔をした寅さんがいた」がっかりしただろうなと言う竜造。今頃汽車の中で泣いてるんじゃないかと言うつね。結果は違ってたからよかったんでしょうと言う博。これが不幸中の幸いって奴だと笑う社長。

四角いのがおかしいのかと怒る寅次郎。「今はあの娘のことを思って、涙を流さなきゃいけないんじゃないのか。お前たちは悪魔か」寅次郎に詫びる社長。「四角い顔ってのは言い過ぎだった」「てめえに人の顔のことが言えるか。うちに帰って鏡を見ろ。鏡の奥で青膨れしたタコがびっくりしてらあ」「なんだと」

喧嘩しそうな寅次郎と社長を止めるさくら。「せっかく16年前の綺麗な思い出話をしてるんじゃない」でもなあと呟く竜造。「その16年間、こいつは惚れちゃあ振られ、惚れちゃあ振られ」「好きで振られてるんじゃねえよ」「考えてみろ。まともに結婚していれば、あれくらいの年ごろの娘がいてもおかしくないんだぞ」「おいちゃん。俺だってあんな可愛い子が俺の娘だったらと思うよ。でもしょうがないじゃねえか」怒ってとらやを飛び出す寅次郎。

とらやの二階に御前様の親戚で大学で考古学を専攻している筧礼子が下宿することになる。大学の先生ですかと聞かれ、単なる助手ですと答える礼子。お雪の墓参りをした寅次郎は住職にあなたはお雪さんの身内の方かと聞かれる。「いいえ。ちょいとした知り合いの者です。東京から参りました」「それは随分遠くから」

お雪は東京から来た男に騙されたと言う住職。「いろいろと女出入りのある男だった。お雪さんも随分尽くしたようだが、男からすると所詮遊びごと」「お雪さんはずっとその男のことを」「いやいや。よく寺で話してました。私にも少しでも学問があれば、男の不実を見抜けたものを、学問がないために一生の悔いを残してしまった。可哀そうな人でした」「和尚さん、私にはお雪さんの気持ちがよくわかります。私も学問がないためにどれだけつらい思いをしたことか。私はバカな男です」「それは違う。自分の愚かさに気づいた人間は愚かとは言いません。あなたはもう利口な人だ」「……」「己を知って世界を知る。あなたも学問を始めなさい。学問を始めるのに遅いも早いもない」

柴又に戻って喫茶店でコーヒーを飲む寅次郎は、本を読む礼子に本が好きかと聞く。「その本は面白いか」「いえ、ちょっと」「最初は誰でもそうだ。勉強のつもりで読むと段々面白くなるんだ」礼子にコーヒーをおごる寅次郎。「いや、そんなことを」「いやいや。コーヒーを飲むお金があったら、そのお金で本を買ってください」喫茶店を出る寅次郎と礼子。「姉ちゃんは何のために勉強してるんだい」「さあ」「考えてみたことはねえかい」「そうですねえ」「己を知るためよ」「そうねえ。本当にそうねえ」礼子がとらやに下宿していると知って驚く寅次郎。

考古学って何だとさくらに聞く寅次郎。「親孝行の学問か」「古い時代の学問よ」何千年前のことを地面をほじくり返して調べるですと説明する博。そんなことを研究して何になるんだと呟く寅次郎。そこに家賃を持って現れる礼子。「何の話をしてたんです」「兄さんになぜ学問をするのかと聞かれ、困ってたんです」私も同じことを聞かれたとさくらに言う礼子。「するとお兄様はスパッとおっしゃったのよ。己を知るためでしょう。私、あっと思ったわ」

いやあと照れる寅次郎はそこに社長が歌いながら現れて気を悪くする。「無教育な声だなあ」手形が落ちて御機嫌だと言う社長に今は高尚な話をしていると言うつね。「どんな話?」学問をしないとお前みたいな男になってしまうと言う話だと言う寅次郎。己を知るとは自分の根本を考えることと言う博に、そんなことを考えて何かの役に立つのかと聞く社長。

お前はダメな男だと嘆く寅次郎。「俺は己を知るために勉強する。この年まで己について何ひとつ考えたことがなかったんだ。本当に恥ずかしいよ」考えるのは大事よと言う礼子。「人間は考える葦って言うでしょう」偉い人は足で考えるのかと言う寅次郎に違いますよと言う博。「川っぷちに生えてる葦のことですよ」「その葦か。足でなくてよかったよ。笑いごとじゃないぞ、タコ。タコだったら頭が一番いいわけだ。足が八本あるんだからな」

寅次郎は礼子とともに毎週水曜日に歴史の勉強を始める。いつまで続くだろうと言うつねに失恋するまで続くと言う社長。

寅次郎に手紙を書く順子。<寅さん、お元気ですか。この間、お墓参りに行ったら、住職さんから寅さんが来たと聞いてびっくりしました。お会いできなかったことがとても残念です。住職さんは寅さんが学問をする心を持っているととてもほめていました。私も負けずに勉強しようと思います。母が死んで大変ですが、何とか頑張ってますのでご安心ください。寅さん、今度山形県に来たら、私の家に寄ってください。そして私の母の若かった頃の話を聞かせてください>

とらやを尋ねるむさ苦しい中年男。「なんだい、お前は。シベリアからの引き上げ者か」「ああ、君が寅さんか」「誰から俺のことを聞いた」「筧君だよ。僕の弟子なんだがねえ」そこに現れる礼子。「まあ、田所先生。よくいらしたわねえ」まさか大学教授とは思わなかったと笑う寅次郎。「てっきり道路工事の人夫と思ったよ。大学教授なんて立派な服を着ていると思ったから」

田所が凄いヘビースモーカーで凄い博識なのに驚く寅次郎は、田所が独身と聞いて不思議がる。「大学教授ともあろう方が一人身とはねえ」先生は独身主義なのと言う礼子に違うと言う田所。「つまり、愛の問題。愛情の問題は実に難しくて、まだ研究しつくしておらんのですよ」「研究?もっと簡単なことだろ。常識だろ」「じゃあ、君、説明したまえ」「いいかい。いい女だなと思う。その次に話がしたいと思う。その次にそばにいたいと思う。そのうち気分が柔らかくなって、その人を幸せにしたいと思う。この人のためなら死んでもいいと思う。それが愛じゃないかな」「なるほどねえと感心する田所。「寅次郎さん、君は僕の先生だ」

田所は酔った勢いで礼子にプロポーズの手紙を渡す。今日の勉強は都合が悪いと寅次郎に言う礼子。「2、3日延ばしていいかしら」「どうしたの」「実はね、私、結婚を申し込まれたの」「え」「これまで結婚のことなど考えてなかったの。考古学の道を歩いて、それで十分満足だと思ったの。それがいざ結婚って話になると根本からぐらついてしまって」「……」「やっぱり私が女だからかしら。それとも私がダメな人間なのかしら」「俺には難しいことはわからないが、あんたが幸せになってくれればいいと思うよ」「ありがとう」

さくらに旅に出ると言う寅次郎。「どうして」「礼子さん、結婚するんだってよ」「誰と」「さあ、あの人が結婚するんだから、俺たちの口のきけないような秀才じゃないかな」「お兄ちゃん、礼子さんからそのことを聞いたの」「ああ。あの人はいろいろ説明してくれたけど、俺にはさっぱりわからないんだ。俺に学問があったらうまい答えをしてやろうと思ったけど。学問がないって口惜しいなあ」

礼子に電話する田所。「お手紙読みました。先生の気持ちは嬉しかったです」「そんなことはどうでもいい。僕は君に大変失礼なことをしたんじゃないかと。ただ僕の気持ちは正直に」「私は一生懸命考えました」「それで」「先生。すいません」「ダメなんだな。僕のプロポーズは受け入れられないと」「どうもすいません」「君が謝ることはない。謝るのは僕の方だ。つらい思いをさせてすまなかった」電話を切って旅にでも行くかと呟く田所。

旅に出ると礼子に言う寅次郎。「勉強が中途半端で申し訳ないけど、旅先で一生懸命勉強するから」「……」「あの先生といっぺんサシで飲もうと思ったんだけど、まあよろしく言ってよ。礼子先生、お勉強どうもありがとう」とらやを出る寅次郎。

さくらに寅さんはどうしたのと聞く礼子。「いつもこうなの。私たちは慣れっこだから気にしないで」「でも、さっきお話したときは、そんなことをこれっぽちも言ってなかったのよ」「お兄ちゃんから聞いたけど、礼子さん、結婚するんですって」「え」「兄は独り者だから、結婚する人のそばにいると迷惑になると思ったんじゃないかしら」「どうしてそんなことを。第一、私、結婚しないの。その問題で悩んでいたけどやめたの」「本当」さくらは慌てて寅次郎を追いかけるが、すでに寅次郎は電車に乗って柴又を去っていた。

寅次郎からの手紙を読む礼子。<遥か遠い旅の空から、あなた様の幸せなご結婚をお祈りしております。私の愚かなる妹のさくらをはじめ、無教育なとらやの家族一同をくれぐれもお引き立てぐださるようお願いします>誰に振られたんだと田所に聞く寅次郎。「煙草屋のばばあか」「そんなんじゃねえ。俺の恋した人は麗しく気立てのいい人だ」「誰なんだよ」「それは言えん」寅次郎と田所は遊覧船に乗り込むのであった。