悦楽 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

広告会社に勤める脇坂に匠子から結婚式の招待状が来る。

「今から六、七年前、私は中学から高校に上がったばかりの匠子の家庭教師のアルバイトをした。私は匠子を愛していた。そのため人殺しまでしたのだ。匠子は小学校二年の夏に里帰りしたとき、男から暴行を加えられた。その男が十年近くたって、恥知らずにも匠子の両親を強請に来たのだ。警察にも相談できず、どうしていいか信頼していた家庭教師の私に相談した」

「私は怒りに燃えながら、男と会った。男はニタニタ笑いながら金を受け取って、今後のことはわからないと言った。私は田舎に帰るという男の後をつけ、男と一緒の夜行に乗り、男を夜行から突き落とした。私は匠子の父に「すべてかたづいた」と報告した。匠子の父は「このことは匠子の耳に絶対に言わないでくださいね」と言って、私に金を渡した。そんなことを知らない匠子はいつものように無邪気に私に笑いかけた。その笑顔はとても美しかった」

脇坂が人殺しをして数日たって、脇坂の下宿に一人の男が訪ねてくる。

『あなた、人を殺しましたね』『……』『私、同じ汽車に乗ってあなたのしているところを見たんです。いえ、私はあなたを捕まえに来たんではありません。私、速水と申します。私はあなたのことを調べました。あなたは問題のない人です。実は一年も前から私はそういう人を探していたんです。どうして、あなたが人殺しなんか』『あれは許すことのできない悪党で』『そうでしょうね、でも僕にはそんなことはどうでもいいんです。あなたは自首する様子もない。それで結構。それでいいんです』『君は何を言いたいんだ』

トランクの中から三千万円を脇坂に見せる速水。『この金は公金です。私が横領したんです。この金を預かっていただきたいんです。あなたが私の公金横領を訴えるなら、私はあなたの殺人罪を訴える。私が考えますに、この横領は半年もたたずに明るみに出るでしょう。それから裁判があって私は刑務所に五年くらい入るでしょう。五年もすれば世間も私のことを忘れるでしょう。ですからあなたが預かってくださる限り、この金は安全というわけです。ね、引き受けてくれますね』『はい』『この金に絶対手をつけてはいけません』『はい』『私が出所するまで、この下宿から動かないでください』『はい』

速水の言うとおりに事件は発覚し、速水は懲役五年の刑を受ける。(私は速水の約束を守った。私の犯罪が明るみに出るということは愛する匠子の過去が明るみに出るということだ。しかし、匠子はウキウキと他の男と結婚した。あと一年もすると、あの男も刑務所から出てくる。私はずっと灰色の女も抱けないみじめな生活を続けることになる。悲劇ではない。完全な喜劇だ)

一年のうち、三千万円使い切って死のうと決意する脇坂。(空っぽのトランクが私の棺桶になるわけだ。私さえ死んでしまえば、匠子さんの安全は保障される)「何に使う。女だ」

バーのホステス眸に長期契約したいと言う脇坂。「月五十万でどうかね」「どうしてそんな金があるの」「僕は親父の遺産を日本を出る前に使い切ってしまいたいんだ」「どこにいらっしゃるの」「フランス」「パリ?」「いや、マルセイユ、どうだい」「月百万ならいいわ」眸に素敵なアパートを買い与える脇坂。東京が遊ぶところがいっぱいあって楽しいわ、と言う眸。「こんな楽しい思いをさせてくれるあんたにどう感謝していいかわからないわ」

しかし眸のところにチンピラの桜井が怒鳴り込んでくる。「おい。一年間に月百万円でお妾になるから、そのうち俺に月二十万円はくれるという約束はどうなった」「もうあんたなんか用はないわ。私はファッションモデルになるのよ」怒った桜井は硫酸をぶっかけようとするが、脇坂は追っ払う。桜井はヤクザの力を使って眸を取り戻そうとする。三百万で桜井は眸を売ると申し出る、脇坂は買おうとするが、これは私の問題と眸は拒否する。「あんたとはもう別れるわ」

脇坂は病気の夫と娘を抱えるキャバレーに勤める志津子と月百万円の契約を結ぶ。「君の夫のどこがいいのかね」「いいとこはありませんわ」「ならどうして別れないのかね」志津子を苛めることに快感を覚える脇坂。「志津子。君は俺がまともな男だと思ってないね。働きもせずに君を抱いてばかりいて、月に百万円も渡している。その金は役人が横領した金なんだ。それを僕が勝手に使ってるんだ。何故かというと、僕が愛した女を僕が裏切ったからだ」

脇坂のところに娘を連れて志津子の夫の江城が現われる。「家内がいつもお世話になって」「いやあ、こちらこそ」「結構なお住まいで」「あなたは何をしに来たんで」「勝手なお願いですが、志津子を返していただけないでしょうか。何卒子供に免じて寛大な処置を」「君は自分の妻がとんでもない大怪物に捕まったと怯えているのか」

江城を蹴飛ばす脇坂。僕たちは不幸な星の下で生まれた運命にあるんだ、と志津子に泣きつく江城。(志津子。君たち夫婦は不幸でないと満足できない夫婦だ。僕は君たちをもっと苛めたいと思っている男だ。どうすれば最も君たちを不幸にすることができるか。それは君たちを幸福にすることだという結論が出た。あの家を君たちにやろう。君たちは幸福な生活に違和感を覚える。次に今度こそ救いのない不幸に陥るだろう。ざまあみろ)

女医の圭子に月百万円で契約しないかと持ちかける脇坂。「気が違っているんじゃないでしょうね」「まさか。あなたに診察してもらってもいいですよ」「専門外だわ」「どうですか。はっきりご返事ください。あまり時間がないんです」「お断りします。抵抗を感じますわ。全然愛情を感じない男に身を任せるなんて」「つきあっているうちに愛情が湧くかもしれませんよ。どうです、一カ月くらい旅行に行きませんか。そうすれば愛情が発生するかもしれませんよ。それでもダメならあきらめますよ」

二人は北海道旅行に行く。脇坂は圭子にキスしようとするが、圭子は風邪をこじらせて二十日も寝込んでしまう。一カ月がたったので別れますという脇坂に待ってくれ、という圭子。「これからどこに」「せっかくここまで来たんで、もう少し果てのほうに」「私も一緒に行きます」北の果てに行った脇坂は金はいくらでも払うから僕と寝てくださいと土下座して頼む。

「圭子さん、僕はね」「言わないで。東京に帰って結婚してください。二月たったら離婚すればいいんだから」「……」「ねえ、あなたは何者なの。初めて身体を合わせる人が誰かわからないんじゃいやだわ」「僕が誰だっていいだろう」東京に戻り結婚生活を始める脇坂と圭子。「私たち、このごろマンネリみたいね」「そうかな」「ねえ、あなた何者なの。月百万円で私を買って、一カ月でいなくなるなんて。どんな運命を背負ってる男なの」「……」

性欲が異常に強く、白痴で口のきけない売春婦のマリと知り合う脇坂。「おい、僕は何者か知りたくないか」ニタニタ笑うマリを抱く脇坂。圭子は脇坂と別れると言う。刑務所に入っていたマリの男であった工藤が出所する。工藤にマリをくれと言う脇坂。「一緒に暮らしたいんです。ひと月百万円でいいんです」「ふざけるな」「これが手切れ金です。じゃあもらっていくよ」ただひたすら脇坂の身体を求めるマリ。「僕はあと一カ月で死ぬんだ。わかるかい。わからないよね。わからないほうがいいんだ。ただ、あと一カ月僕を溺れさせてくれればいいんだ」

工藤は脇坂のことを兄貴と呼ぶようになる。「ちょっと助けてほしいことがあるんです」「なんだ」「実は三千万円の横領した金を預かっている男がどこかにいるはずなんです。その男を俺は探しているんですが、どうしても捕まらないんです。そいつがいた下宿にも行ってみたんですが、そこの爺さん婆さんも行方を知らないと言うんです。何しろ俺はデカに目をつけられてるんで、兄貴に協力してほしいんです」「その話、誰から聞いたんだ。二十万やる。これが持ち金全部だ。教えてくれ」「へえ。実は刑務所で同室になった速水って奴から、死ぬ前に聞いたんです」「え。死ぬ前に?」

「へえ。そいつは俺が出所するちょっと前に肺炎になっちゃって死んじまったんです。馬鹿な野郎でね。そいつには誰も面会が来なかったんです。俺にはマリが来ましたけどね。速水は俺がマリにもらった飴玉欲しさにそんな話をしたんです」はははは、と高笑いする脇坂。「俺がその三千万預かった男だよ」「え。それで、その金は」「お前にやった二十万で全巻の終わりだよ」「この野郎、人を馬鹿にしやがって」

脇坂に拳銃を突きつける工藤。「お前、人を殺したことがあるんだってな。だったら殺されてもしょうがないだろう」そこに現れるマリ。「マリ。こいつはとんでもない奴だ。人を殺した上に人から預かった三千万を全部使ってしまった悪い奴なんだ」マリは工藤から拳銃を奪って、工藤を撃つ。

脇坂は下宿に逃げ帰るが、そこに匠子が現われたのでびっくりする。「何故、こんなこところに」「匠子、先生のお勤め先の広告会社に電話したけど、おやめになったと聞きました。そして先生が大金持ちになったと聞いて、ここに来たんです。先生、私のお願いを聞いてくださる」「なんですか」「私の家、倒産しそうなんです」「え」「月末までになんとかしないと不渡り手形を出しそうなんです。一千万円でも十万円でもいいですから、貸していただけませんか。先生、お願い」

金は三千万あったが一円もないと言う脇坂。「嘘ですわ、先生。先生、貸してくださるんなら、匠子、どんなことでもします。どんなことも」「一円もない。全部使ってしまったんだ」「どうしてそんなお金を」「五年以上前、速水という男が公金を横領した。その金を僕が預かったんだ。その男は僕が人を殺したことを知っていた。その弱点につけこんで無理矢理金を押し付けたんだ」「先生が人を殺したんですか。何故。誰を。なんだってそのお金を使っちゃったんですか」「君の秘密を守るためだ。君が結婚したからだ」

一人路地裏を歩く脇坂は刑事に手錠をかけられる。「殺人の容疑者として君を逮捕する」「殺人?昨夜の事件ですか」「昨夜?昨夜も人を殺したのか。それはあとで聞こう。今お前を逮捕するのは五年前の殺人だ」「教えてください。密告したのは誰ですか」「お前を前から知っている女の人だ。わかったな」「匠子」