作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(340)」 | ロロモ文庫

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ラーメン戦争(3)

流星組組長の雉川に取材を申し込む山岡と栗田。「雉川さんは流星組を率いて、狙ったラーメン屋の近くで営業する。流星一番亭のラーメンは美味しいから大繁盛し、客を取られて営業不振になったラーメン屋に対し、流星組の傘下に入るように迫る。こうして流星組はどんどん勢力を伸ばしている。雉川さん、あなたの狙いを聞きたい」「ふ。それだけ知ってれば十分だろう。それ以上、聞く必要はない」

「雉川さん、おたくのスープの秘密はタイのナムプラーだな」「む」「おたくのダシの基本は鶏で、それにアジブシが入る。それだけではこの独特の香りと味の深さが出ない。そこで隠し味にナムプラーを加える。ナムプラーも魚の旨味成分だから、アジブシの味と調和して、この複雑で魅惑的な味が構成される」

「ぬうう。うちのスープの中身を読み切ったのは、君が初めてだ。褒めてやろう」「褒めるならご褒美をくれよ」「ご褒美?」「もう金銀軒を狙うのはやめてくれないか。金銀軒じゃ女主人一人で頑張ってる店だ。見逃してやってくれ」「そうはいかん。明日、うちの事務所に来い。話をしてやろう」

山岡と栗田に雉川の経歴がわかったと言う長井。「あの男はアメリカに渡り、そのころ弱小のハンバーガーチェーンだったクジャンバーガーに入り、たちまち全米2位のハンバーガーチェーンに育てあげたんです。ところが三年前にクジャンバーガーを突然辞めて、今は流星組を率いて、ラーメン屋チェーン作りを日本で始めているわけです」「アメリカみたいな厳しい所で、ハンバーガーチェーンを成功させた腕があれば、ラーメン屋のチェーンだって成功するわ」「こりゃ流星組に対抗するのは大変です」「むう。とにかく話を聞いてみなければ」

事務所に来た山岡たちにまずラーメンの試作品を食べてくれと言う雉川。「昨日のラーメンとはスープと麺が変わっている。麺は若干太目で、スープは魚で取ったダシが入っていない」「昨日の麺にはカン水が入っていたが、今日の麺には入ってない」「ひょっとしたら、西洋人にも喜ばれるラーメンを研究しているんじゃないのかな」

「むう。鋭いところをついてきたな。これは特にアメリカ人に喜んで食べてもらえることを狙った試作品だ。魚のダシの風味はアメリカ人に馴染まない。麺はカン水を使った時の独特の匂いがアメリカ人に喜ばれないと判断した。麺は太目なのもアメリカ人の好みに合わせた結果だ」「ではアメリカに進出するつもりですか」「それが私の最終的な目標だ」「クジャンバーガーを辞めたのは、ラーメンのチェーン店をアメリカで展開するためだったのか」

むうと唸る雉川。「私は弱小ハンバーガーチェーンを全米第2位の大きさにまで発展させたが、私を恐れたオーナーは私をクビにした。私はクジャンバーガーに対抗するハンバーガーチェーン作ろうと思ったが、個人的な恨みで事業をするなんて小さいことだと気づいた。私は本当はハンバーガーなんか好きじゃなくて、ラーメンが大好きだ。そこで今度はアメリカにラーメンチェーン店を作って広げてやろうと思った。そのためにはまず自分の足元を固めることが必要だ。そこで手始めにチェーン店作りを始めたと言う訳だ」

「素晴らしいお話だと思います。でもそのやり方が問題だと思います」「全然問題じゃない。私たちに客を取られるラーメン屋は才能と熱意に欠けている。日本は自由競争の社会だ。品質の良いものを作った者が勝つ」「それはそうですけど」「既存の店を傘下に入れるのは、新たに店を作るより安価に出来るし、従業員を新たに集める必要もない。しかもまずい店が消えて、お客さんのためにもなる。だからこれからもこの方針を変えるつもりはない」「……」

「ラーメンは不思議な魅力を持っている。一度取りつかれると逃れがたい。これだけ素晴らしい食べ物は世界中に広めてやりたい。そのためにも、日本でもっと強力なチェーン展開をして、基礎固めをする。まずいラーメンしか作れないラーメン店はどしどし潰すか、流星組の傘下に入れてやり直してもらう。私はラーメンに命を賭ける決心をした。誰にも邪魔はさせない」「ぬうう」「他に聞きたいことはあるか」

何もないと答える山岡。「そこまで意志が強固なら、金銀軒を見逃してくれと頼んでも無意味だろう。では、こちらもやるしかないな」「む」「なんだか、俺はあんたと勝負したくなった。俺たちであの金銀軒を守ってみせるよ」「ふふふ。まあ好きなようにするがいい」

金銀軒の屋台車を準備する橋田。ラーメン三銃士を連れてくる長井。「麺の専門家の乃士です」「スープの専門家の出川です」「具の専門家の多木です」「この三人は今までにいろんなラーメン屋の建て直しに成功してきたラーメン屋再建専門家だ。ラーメンの中味はまかせてくれ」「流星組に対抗する唯一の手段は、流星組は店を出す所に、我々もこの車に出して、味で流星組と一騎打ちして、叩き潰すことだ」「むうう、やるぞ」