作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(180)」 | ロロモ文庫

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カキの料理法(後)

至高のカキの料理を説明する海原。「最初のグラスは生ガキだ。ソースは生のトマトをつぶしてこした物に、玉ねぎの微塵切りを少し加え、白ワインとライムの汁で伸ばして、唐辛子の粉を少々。これにエストラゴンを刻んだものを乗せてやる」「これはいいのお。わしは生ガキを生臭くて好きじゃないが、こうやれば旨いよ」

「そうか。私の生ガキとこの生ガキはまるで違う」「生ガキの強烈な潮の匂いとえぐさが、この性格は強いが後口のスッキリしたソースのおかげで消え、残るのはカキの身の甘さだけだ」「ひょっとして、海原雄山は生ガキの食べ方を教えるために、これを」

「これはクリームソースですな。上に乗っているのはキャビアだ」「カキを白ワインと魚のだし汁を合わせた物の中で、さっと熱を加えて取り出す。その煮汁にクリームを加えて煮詰め、最後にオレンジの搾り汁を入れてソースとし、セルフィユを添えた」「全体にこってした味なんやが、オレンジの風味があるおかげで、後口がとても爽やかや」

「シャンパン蒸しより濃厚な味ね」「キャビアを使うなんて、他の人がやったら軽薄で嫌味ですが、これは嫌味どころか、見事としか言いようがない」「……」「シャンパン蒸しを出したら、負けてましたね」

「はて?香りが素晴らしいが、この緑色のソースは」「サンショウの葉や」「カキは殻のまま。身の表面に酒と醤油を混ぜた物をハケで塗ってから、オーブンでごく軽く火を通す。カキを殻から外し、殻に残った煮汁を煮詰め、サンショウの葉をすりおろした物を加えて、タレとする。カキの身にはカラスミを炙ってすり鉢で粉にした物をまぶして、皿に取る。その上にサンショウ風味のタレをかける」

「私の焼きガキなんか足元にも及びません」「……」「生ガキ、煮たカキ、焼いたカキ、それぞれの特性を引き出す素晴らしい料理です」「至高のメニューが終りました。次は究極のメニューをお願いします」

「ほう。蒸してあるようじゃが」「あれは」カキに熱い液をかける川地。「おおっ。あれは油やな。熱い油をかけたんや」

説明する川地。「カキを殻ごと蒸し器に入れる前に、醤油と紹興酒も混ぜた物をふりかけ、長ネギの細切りと香菜を乗せます。軽くサッと蒸したら取り出して、煮えたぎった落花生油をかけてやります。殻に残るスープを飲むのもお忘れなく」

「こりゃ旨いわ。カキはこないにええ匂いのするもんやったのか」「うむ。胸のすく香りじゃな」「海の香りが立って、しかも潮の香りは強すぎたり、生臭かったりすることもない。この香りを引き出したのが油なのね」「これは中国料理の技法なんだ。熱した油とスープのぶつかり合いが素晴らしく香ばしい香りを立てるんだ」

「それでは審査結果を発表します。至高のメニューは実に洗練されていて、上品の極み。素晴らしい物でした。究極のメニューは少々荒っぽいのは難点です。しかし、香り、味とも究極のメニューは鮮烈の極み、この興奮を駆り立てる特性は至高のメニューにはないものです。今回は洗練より興奮を取って、究極のメニューの勝ちとします」

山岡に海原雄山はわざと負けたとしか思えないと言う川地。「どうして」「あの時、シャンパン蒸しは看板に偽りありと言ったのは、本当の蒸し料理を考えてみろと暗示するためではないでしょうか。同時にカキ料理で魅力的なのは、鮮烈な香りであることも暗示してくれました。我々に暗示するくらいなのだから、海原雄山は我々が作った蒸しガキより、もっと鮮烈な蒸しガキを作ることが出来たはずです」「……」

「週刊タイムには私の名が山岡さんの助っ人として、店の名と一緒に出ます。それは私の店にとって大変な宣伝になるでしょう。海原雄山は私の店の客を減らした償いをしてくれたんじゃないでしょうか」「そう思いたきゃ思うがいいさ。だけどヤツはそんな人間らしい心の持ち主じゃないよ」「山岡さん」