作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(146)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

餃子の春(後)

そんな大変なことになったんですかと恐縮する山脇。「私と近田社長の争いに、山岡さんや海原雄山先生まで巻き込んでしまって。餃子対決の場に私たちも出席させてください。近田社長も私も、究極の餃子、至高の餃子、どんな物か見届ける義務がある」「でも、究極の餃子はできているの?」

そこに現れる餃子マニアの大津と中国人留学生の房。「今日は大津さんと房さんが本場北京の餃子を作ってくださることになっているんだ。何が究極の餃子か騒ぐ前に、本場の本物の餃子を知ってもらおうと思って」「私は豚肉餃子を作ります」「私は海老餃子を」

餃子を作る大津と房。「あら、二人ともニンニクは入れないんですね」「中国では餃子にニンニクを入れません」「えっ、本当?」「どうしてもニンニクが欲しい人は、ニンニクの薄切りを齧りながら、餃子を食べたりします」

説明する山岡。「日本で餃子が食べられるようになったのは、第二次大戦の後だ。敗戦前に中国にいた人たちが、中国で食べた餃子を日本で作り始めてから広まったんだ。その最初の頃に、誰かが餃子にニンニクを入れて、それがいつの間にか固定してしまったんだ」

水餃子を作る2人。「この皮の舌ざわりがたまらないわ。チュルンときて、パッと入るの」「房さんの餃子はあっさりしてますね。あれだけ丁寧に白菜を叩いただけのことはある」「大津さんの海老餃子は豚肉が入ってるだけあって、味が濃厚だわ」「水餃子って美味しいわ。どうして日本の餃子って、みんな焼き餃子なの?」

それは手間の問題が大きいと言う山岡。「水餃子にするためには、皮をピッタリ念入りに合わせて包まないと、茹でた時に具が外に出てしまう。焼き餃子は合わせ目が開いても、別にどうと言うことはない。だから大量に売るためには、焼き餃子の方が都合がいいんだろう」「そうですね。それに水餃子だと茹で上がってすぐに食べていただかないと、たちまち皮が延びて味が落ちます。大勢のお客様に大量に売るのは辛いです」「でも、私は水餃子の方が好き。あっさりして」「ううむ。よし、お春でも挑戦してみよう」

「今回は究極のメニュー対至高のメニュー対決番外編として、餃子合戦となりました。では、海原先生の方からお願いします」「私は日本の餃子店の餃子にいくつか不満を持っている。その最大の不満は決定的な味が欠けていることだ」「それは肉の味とか野菜の味のことですか」「そうではない。中味ではない。包む皮だ」「え」

「餃子の皮は単に具を包むだけのものではない。麺類に言えば、麺そのものに相当する。皮の旨味こそが肝心なのに、皮の旨い餃子屋と言うのはまずない。その原因は焼き餃子に頼り過ぎているからだ。焼き餃子なら皮がパリッとなっていれば、なんとか恰好がつく。しかし、水餃子や蒸し餃子だとそうはいかない」「なるほど」

「不満の第二はニンニクを必ず使うことだ。餃子の中身をいろいろ変えても、必ずニンニクが入っているのは、まさにバカの一つ覚え。それで私は以上の二つの不満点を解消した餃子を持ってきた。焼き餃子に飽きているのは誰しも同じ。となると大抵の者が水餃子を思いつく。そこで私は蒸し餃子を出すことにした」

「うわ、これはキレイじゃ。皮が半透明で透けて見えるな」「皮は米の粉で作りました。これを蒸すと、実に官能的な歯ざわりとなる。緑色に透けて見えるのはニラ餃子。赤いのが海老餃子。白いのは魚のすり身」「ああっ。噛むと中からスープが口の中にほとばしって」「小籠包と同じ作り方ね」「なんとも上品な味ですな」「餃子屋の餃子とは比べ物にならん」「では次に山岡さんにお願いします」

水餃子を提出する山岡。「俺の考えでは餃子は完全食になりえると思います。皮は小麦粉。中味は肉と野菜。一食で必要な栄養分を取ることが出来る。それを追求したのがこの餃子です。中味は肉にニラとシイタケ、ショウガ、それに八丁味噌を隠し味に練り込み、酒で味を整えました。米の皮で包んで蒸すのもいいが、餃子はあくまで小麦の粉食文化のもの。北京から来た留学生の房さんの餃子を食べて、餃子の本道はこれだと俺は悟ったんだ」

ぬうと叫ぶ海原。「王道などそんなことはどうでもよい。審査員の判断を伺おう」「確かにこの水餃子をは美味しいが、海原さんの蒸し餃子に比べると新味が」「待ってください。俺の方はまだ一皿残っています」

黒砂糖入りの餃子を出す山岡。「これは嬉しい不意打ちです」「これはさっきの水餃子と一対にして判断すべきですな。どんなにあっさりしていると言っても、餃子を食べたあとは口が重たい。それが一気にスッキリした」判定を下す唐山。「目新しさと美しさで雄山の餃子が優位に立ったが、最後に甘い餃子を持ってきた士郎の計算は優れている。この勝負は引き分けじゃ」

反省する山脇と近田。「山脇さん。今日の餃子合戦を拝見すると、私は勉強不足と言うことを思い知りました。山脇さんにあんなことを言う資格はありません」「私もです。今日勉強させてもらったことを元に、もっと美味しい餃子作りを競い合いましょう」「はい」「森沢さん。私を助けてくれますか」「ええ。一生かけて」