作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(27)」 | ロロモ文庫

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直火の威力

山岡と栗田に相談があると言う周の妻の芳蘭。「ただし主人には内密で」「え」「私どもには香玉と言う娘がいますが、屋敷で雇っていたコックの王士秀と言う男と恋仲になってしまったのです。主人と私は娘には我が家にふさわしい家柄の婿と思ってましたので、二人で娘を厳しく叱ったところ、娘は王と一緒に姿を消してしまったのです。家出して半年後に二人の行方を突き止めました。王と娘は蒲田の場末に「大王飯店」と言う中華料理店を出していたのです」

大王飯店に行く山岡と栗田。王の仕事を赤ん坊を背負って助ける香玉。チャーハンを食ってイマイチだと言う山岡にムッとする王。「あんた、何ですか。さっきから私の料理にケチつけて」「俺たちは香玉さんの奥さんに頼まれて来たんだよ」「えっ」「大変に心配しておられてね」「帰ってちょうだい。もう私は周家と何の関係もないんだから」「香玉さん、待って。お母さまはあなたと王さんの味方よ。お父さまにもあなたと王さんの間を認めさせようとしておられるのよ」「えっ」

父は私たちの結婚を絶対認めないと話す香玉。「在日華僑の支配的地位にある男として、自分の娘がお抱えのコックと一緒になるなんて許せないのです」「私も旦那様に申し訳ないと思っています。お嬢様とこんなことになって」「あなた、周懐徳はもあなたの主人じゃないのよ。旦那様と言うの、よしてください。それに私もお嬢様じゃありません。どうして香玉と呼んでくださらないんですか」「す、すみません」「どうして謝るの。あなたは私の夫でしょう」

王に聞く山岡。「同郷会に融資を申しこんだんだって?」「ええ。我々華僑は同じ出身地の物を助け合うしきたりがあります。私はお嬢様とお屋敷を出た時、それまで貯めた金でこの店を借りました。それからこの界隈では美味しい店と評判になりました。そうなると、立派な店を持ちたいと言う欲が出ます。それで、店を出す資金を貸してくれるよう、同郷会にお願いしたのです」

「しかし、君は広東出身で、周さんは広東同郷会の会長だ。それなのに融資を申し込むとは」「しかし、そこしか申し込む術がありませんし、副会長の陳陸雄さんは中国拳法を教えている武術家で、私は陳先生の弟子です。陳先生は私と周大人のことを知っているので、ご助力くださっているのです」「その陳氏の推薦もあるので、周大人も無視するわけにいかなくなった。だがその代わりに条件をつけた。同郷会の幹事たちが君を試験すると言うんだ」「私の料理の腕を試すと言うんですね」

「父の狙いはわかったわ。主人の作った料理にケチをつけて、融資を受けられないようにするつもりなのよ」「旦那様のお怒りはそれほど激しいのか」「旦那様と言うのはやめてと言ってるのに」「あ」「だから、香玉さんのお母様は心配なさって、私たちに王さんの料理の味を見てきてくれと仰ったの」「それで山岡さんは主人の料理を。山岡さん、聞かせてください。うちの主人の料理はどうですか」

問題は王の心だと言う山岡。「自分の女房をお嬢様と呼び、女房の父親を旦那様と呼ぶ。その使用人根性が問題だ」「私も主人にそのことを治すようにいつも言ってます。でもそれが料理の味とどんな関係があるんですか」「それは俺の個人的見解で、王さんの料理の味は標準を超えているから問題ないかもしれない。幹事会による試験は俺も参加する」

試験で無難に料理を作る王にチャーハンを作れと命令する周。「は、チャーハンですか」「あなた、こんなに立派な料理を作れるんだから、今更チャーハンだなんて」「チャーハンだ。チャーハンを作ってこい」「は、はい」

チャーハンを口にして、馬脚を露したなと王に言う周。「なんだ、このチャーハンは」「え」「全然パラッとせず、ベタベタしている。チャーハンは飯の一粒一粒がくっついてはいけない。飯粒が十分に油を吸って、なおかつ一粒ずつカラリと仕上がっていなければならない。これじゃチャーハンでなく、西洋のピラフだ」「……」

「いかがです、陳先生。王を弁護する余地がありますか」「うぬ。残念ながら周大人の言われるとおり」「聞いたとおりだ。チャーハンは炒め物の技術を見るのに一番適した料理だ。中華料理の基本は炒め物、それが出来ない物は中華料理のコックとして失格だ。今になって思えば他の料理もどこか抜けたような気がしていた。中華料理の基本は出来ていない者にまともな料理店が経営できるわけがない。そんな人間に大事な金を貸すわけにいかない。王、お前は落第だ」

周に待ってくれと言う山岡。「もう一度、王さんに機会を与えてください。それでもダメだったら、王さんは香玉さんと別れ、香玉さんは両親の元に戻ります」「何ですって。そんな乱暴な」「王さん、あんたは料理人失格の烙印を押されたんだ。このまま引き下がったら、中国人社会では二度と認められないぜ。もう一度勝負するか、それとも場末の小さな店で人生を終えるか。どっちを選ぶんだ」「う」「あなた、いいのよ。私はあのままで、小さな店で貧しくても」「もう一度やらせてください。今度ダメだったら、お嬢さんをお返しします」「よし。また日を改めて試験してやる」

大王飯店で豪快にチャーハンを作る山岡。「王さんとは比較にならない動作の大きさ。ご飯が宙に舞い上がる」「俺が見るところ、あんたはこの強力な炎を御しきってない。炎の主人になりきってないんだ。鍋から放り上げた飯が空中で炎の上を通り抜ける。その時、炎に直に炙られる。それによって余分の油が飛んで、飯がパラリとなり香ばしくなるんだ。鍋の中でイジイジかき回してるだけじゃ、本当のチャーハンはできない」「そうか」

「俺があんたの炒め物に首を傾げたのは、今ひとつシャッキリと仕上がってなかったからだよ。炒め物は炎との勝負だ。炎を完全に支配し使いこなす。それには強力な炎より強い心が必要だ。女房をお嬢様と呼ぶ使用人根性で、強力な炎を御せるわけない。もうあんたは使用人じゃない。一国一城の主なんだぜ」「そうか。私は小心で心が縮こまっていた。それでは腕も縮こまるのも当たり前。炎を御することなんてできない」

再試験で完璧なチャーハンを作る王に、3000万貸すと言う周。次々に貸すと言う幹部。合計1億5000万になったと言う陳。「若い二人が出発点とする店づくりにはこれで十分だと思うがま」「あなた、やったわね」「香玉、これから場所探しだ。当分店の手伝いはほかの者を雇って、お前は不動産屋を回ってくれ」「はい」「あらあら、お嬢さんがお前になっちゃったわ」「王、いや、婿殿。孫の顔を見に行っても構わんだろうか」「どうぞ、いらしてください。お義父さん」「山岡さん。これで二度も日本人に中華料理のことでやられた。このお返しはきっとしますぞ」