手塚治虫「アポロの歌(8)」 | ロロモ文庫

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女王シグマ(1)

警察から放り出される昭吾。「とっとと出ていけ。このチンピラめ」「もう二度とブタ箱の世話になるんじゃないぞ」「ちゃんと正業に就くんだ」

(頭が割れるように痛い。ここはどこだ。俺の名は近石昭吾。それだけしか覚えていない)「近石君。来るんだ」「おじさん、誰だい。まさかデカじゃないだろうな」「隊長である私を覚えてないのか。相当警察で拷問を受けたんだね。まあいい、すぐ頭は治るさ」「拷問?」「さあ行こう。同志が待っている。ロボポリスがいる。あいつたちにゃ理屈がわからない。近寄らない方がいい」「ロボポリス」「どうだ。ここがアジトだ。思い出しただろう」「いや、こんなところに来たこともないよ」「そいつは困ったな」

「諸君、近石少年は無事だったぞ」「どう?私たちの顔を思い出した?」「全然思い出さないよ」「じゃあ、この写真の顔は覚えてない?」「かすかに覚えている。どっかであった顔だけど」「やっぱり使命をちゃんと忘れなかったんだ。拷問でも」「何がどういうわけなのか教えてくれ」

「近石君。あなたは暗殺者なのよ」「ええっ」「君は女王に近づいて、女王を暗殺するんだ。我々人類のために。女王付きの奴隷に志願して、女王に近づき、一発で仕留めるのだ」「女王?いったい何のこと」

「仕方ない。初めから説明しよう。今、世界には二種類の人間がいる。一つは我々のような普通の人間、もう一つは合成人だ。合成人は元々人間が作った作り物の生物だ。それがどんどん増えて、今では合成人が合成人を作って、人間より数が増えてしまった。しかも合成人は生身の人間より頭もいいし体も完全だから、本物の人間を軽蔑し蔑むようになった。合成人は本物の人間を追いやり、大抵の国を支配している。日本もだ」

「日本は合成人の女王シグマとその側近とが治めている。君は女王を殺す使命を」「わかったよ。俺が殺し屋だっていいよ。どうやって殺すんだい」「君の武器は歯の中にある。上の第二犬歯の中に強力なミニ爆弾が詰めてある。絶体絶命の時はそれを使って自殺したまえ」「……」「警察に捕まると、また拷問を受ける。気を付けるのだ。君ならきっと女王つきの奴隷になれる。成功を祈るぜ。人類のために」

アジトを出る昭吾。(で、どうすればいいんだろう。とりあえず喉が渇いたな)昭吾は喫茶店に入るが、そこは合成人専用の喫茶店だったために叩き出されてしまう。

「あんまり、ジロジロ見るな。見世物じゃないぜ」「あたし、人間は嫌いじゃないわ。あたし、ミナって言うの。東京、初めてきたのね」「……」「東京はほとんど合成人よ。東京は初めてなら、案内してもいいのよ。あなた一人で歩くとロボポリスに睨まれるわよ」「さっき、もう捕まったよ」「どこへ行きたいの」「女王の宮殿はどこだい」「地下鉄で行けば早いわよ」

豪勢な宮殿に驚く昭吾。「あっ、女王がお出ましだわ。あたしたち、ついてるわ。女王は滅多に外出されないの」(これが女王か。俺はこいつを殺すのか。誰かに似ている。誰だか思い出せないが、確かに見た顔だ)「ミナ。銀座はどうなってるんだい」「あんなとこ見たって、つまんないわよ」「見たい。案内してくれ」

墓石だらけの銀座に驚く昭吾。「みんな人間の墓なのか」「ええ。新橋から神田まで全部お墓よ」「ビルは誰も住んでないのか」「もう何十年もほったらかしよ。ここいらは廃墟なのよ」「どうしてこうなったんだ。なぜこんなに人間が死んだ。戦争かい。放射能のためない」「光化学公害なの」「あの排気ガスとかスモッグが毒ガスになって」「三年でばたばた死んだそうよ」

「なぜ、人間はこうなる前に公害を防ぐ方法を考えなかったんだろう」「あたしたちはそんなことをしないわ。人間はバカだからよ」「合成人め。人間の文明を横取りしやがって」「……」「ゴメンよ、親切に案内までした君を殴ろうとして。悪かったぜ」「平気よ。人間と一緒にいる時は、急に人間は暴れ出すことがあるから、ちゃんと気を付けてるわ。これを持ってるもの。人間は撃ち殺していいとママが言ったもん」「君みたいなチビがそんなものを持ってちゃいけないよ。渡すんだ」「イヤ」「貸せ」「イヤ」ミナに狙撃される昭吾。