ゲゲゲの鬼太郎(第2部) 第37作 | ロロモ文庫

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地相眼

鬼太郎親子に語る安井。「今から25年前、わしは戦争から帰ってきた。東京は一面の焼け野原で、わしはその夜、崩れた社のそばで寝ることにした。すると1トン爆弾の落ちた穴から奇妙な笑い声がしたので、わしは穴の中に入った。するとそこに横穴があって、笑い声はそこから聞こえて来る。その横穴に入ってしばらくすると、笑い声は消え、深い霧の中に入ってしまった。霧が晴れると、そこは奇妙な景色で、しばらくすると沢山の化け物が現れたので、私は必死に逃げたのです」

わかったぞと呟く目玉親父。「そこは妖怪の国、すなわち魑魅魍魎の世界だったんじゃ」「そうだったんですか。とにかく逃げて逃げて逃げまくりました。すると塔の上が光っていたので、私は思わずよじ登りました。そこには3つの光る球がありました。私は赤い球を手にして落としそうになりましたが、その球がへそにくっつき取れなくなったのです。私は薄気味悪くなり、塔を降りて、なんとか横穴から脱出したのです」

鬼太郎親子にへそにくっついてる赤い球を見せる安井。「うむ。それでわかったぞ。あんたが裸一貫で巨大な財閥になったわけが」「さすがは鬼太郎君のお父さんだ。この球は地相眼と言って、地上のことを見通す球だそうだ」「左様。そこは魑魅魍魎界の天文方位観測所じゃったんじゃ。地のことを知りたければ地相眼、天のことなら天相眼、水のことは水相眼。それをへそにあてがっていれば何もかもわかるのじゃ」

あれ以来、地上のことはなんでもわかり財閥を作ることができたと話す安井。「だが一人息子の安男のことで困ったことが起きたのです」「僕に力を借りたいというのは息子さんのことでしたか」「10年前の真夜中、魑魅魍魎の国から使者の化けミミズがやってきたのです」

「その球を返せとは言わん。人間のへそについたら取れないし、その人間が死んだら焼けてなくなるのだ」「そうなのか」「我々はこの15年、地相眼なしの天文方位で苦労させられたが、それも責めはしない」「御寛大なことで」「寛大だからではない。お前の息子が二十歳になるのを待っているのだ」「え」「我々は息子を新たな地相眼に作り変えるであろう」「なに」「お前がそれを拒否するなら、お前の命とお前の財産が失われるであろう」「うう」「これは我々の好意ある予告である」「わかりました。私がどちらを取るか、あと10年待ってください」「よかろう。では10年後に来るぞ」

どちらを選ぶんですかと聞く鬼太郎に、どちらも選べないから相談していると答える安井。「それは勝手すぎますよ。あなたに宝を取られた魑魅魍魎たちはとても紳士的なんだから、あなたもそれに答えないと」「わかってる。しかしわしは息子も自分も大切なんじゃよ。鬼太郎君、頼む。助けてくれ」

社長の命と財産がなくなったら社会的大混乱ですと安井に言う専務の金井。「ここは一つ、坊ちゃんに泣いていただきましょう」「だが」「あなたがいなくなった関連会社百万人の従業員が路頭に迷うんですよ」「うむ、と言って」「もはやあなたの命はあなた個人で決められないのです」

鬼太郎の家ではははと笑う安男。「あの親父が僕のことを心配したんですね」「そうじゃよ。君が何やら憂鬱そうなんで、環境を変えたらと、ここに預けたんじゃ」「それは少々ピントが外れてるけど、そうですか」「え」「いや、地相眼のことは親父の日記を読んで知ってます。それで親父がどっちを取るか興味があったんです。あのガリガリのエゴイストが最後の一点で息子に興味があるかどうか」「そんな。他人事みたいに」「でも、僕、決めました。鬼太郎さんは掛け合いに行かなくていい。僕、地相眼になりに行きます」「え」「僕は親父と違って、僕が消えても、ああそうかよで済みますから」

馬鹿野郎と怒鳴るねずみ男。「カッコつけてる場合かよ。地相眼になるってことは肉体的にすごく苦しむんだぞ。なあ、親父」「お父さん、本当ですか」「うむ。わしは知らんが有機質が無機質になると言うことじゃから、それくらいの苦しみがあるかもしれんぞ」「そりゃイヤだな。僕、痛いのは苦手だ」「ようし、俺が掛け合いに行ってやるよ。お前の親父の金を土産に持っていけば、なんとかなる。地獄の沙汰も金次第って言うからね」「そういう掛け合いならぜひお願いします」「こりゃ忙しくなったよ。おい、親父。魑魅魍魎の国はどう行くんだよ」「ねずみ男。僕も行くぞ」「やっぱしそうなるのね」

魑魅魍魎の国で化けミミズと会ってきた安男に言う鬼太郎。「地相眼になる時、まったく痛くないそうだ」「そうですか。だったら安心です」「しかし、あんたも変わっとるのう」「どうしてですか」「何不自由な暮らしして、将来は財閥の社長じゃからなあ」「人はそう思うでしょう。でも僕はもっと他の生き方をしたい。親父はそれを許さないんだ。それならいっそ地相眼になるのも面白いって気がするんですよ」

そこに現れる化けミミズ。「なんだ、お前。迎えは頼まなかったぜ。こっちから行くところだ」「迎えじゃない。お前の連れが天相眼と水相眼を盗んで逃げたのだ」「え」「どうしてくれる。天文方位観測所は機能を停止してしまったぞ。あの男を出せ」「畜生、ねずみ男のヤツ。化けミミズ、必ず二つの球は取り戻す。それまで待ってくれ」

安井に天相眼と水相眼を売り込むねずみ男。「二つ合わせて1億円」「よし買った」「さすがは社長」「ただし、ここで金井のへそに球を当ててみたまえ。はまらなきゃニセモノだ」「へへへ、お安い御用」「やめてください。私は一人娘を人身御供にできません。あんたがはめたらどうですか」「残念ながら俺は半妖怪でへそがないのよ。あったらとっくにはめてるよ」「じゃあ、誰か二人適当な人間を見つけるか」

そこに現れる鬼太郎。「おい、ねずみ男。お前の持ってる球はニセモノだぞ」「そんなバカな」「あの国では地相眼を盗まれて以来、イミテーションを置いているんだ」「トホホ」「じゃあ、ニセモノはもらっていくぜ。安井さん、息子さんが地相眼になる前に一目会いませんか」「なに。息子が地相眼に。誰がそんなことを決めた」

化けミミズにに天相眼と水相眼を返す鬼太郎。安井に地相眼になると言う安男。「人間より企業が大切。お父さんはそれで今日の財を成したんでしょう。実は僕、そういうのに前からとても付き合えないと思ってたんです。逃げられるなら逃げたかった」「そんなことを考えていたのか」「ええ。ただ逃げるだけなら、逃げられたけど、これなら父さんの役にも立てる。一石二鳥です。さよなら」「安男。許してくれ」

地相眼になっていく安男。(考えてみると親父は特別エゴイストと言うわけでもないんだな。勝つか負けるか二つの経済競争しかない国に、日本はいつからなってしまったんだろう。日本人はいつから集団発狂してエコノミックアニマルになってしまったんだろう。ああ、意識が薄れていく。どうしてみんなもっと幸せな人間らしい生き方ができる方向に行かないんだろう)

あーあと呟く鬼太郎。「とうとう地相眼になっちゃんたんだね、安男君」「人間の世の中がこうなってくると、わしらの力も使いようがなくなってくるで」「そうですね」