復讐するは我にあり | ロロモ文庫

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昭和38年。息子の巌が殺人犯で全国指名手配となったと刑事に告げられる鎮雄。「わざわざお知らせありがとうございます。昔から巌のために家族は辛かめに逢ってきました。こげん人殺しまでしよるとは、まったくなんちゅうたらええか。恥ずかしかことです」「おたくは五島の方ですね」「はい。海軍の補償金で別府に旅館ば買うたとです。ばってん、巌の非行ば日増しにひどうなりまして、戦時中はずっと少年刑務所でござした」

昭和21年。見合いするって本当かと巌に聞く加津子。「ははは。見合いの相手はな、親父に押し付けられた五島の女たい。おいはあげな化け物と一緒になる気はなか」俺は化け物よりか加津子と結婚したいと鎮雄に言う巌。「こいの家が仏教でダメじゃ言うなら、明日んでん改宗して洗礼を受けさす。文句はなかろうが」「わしはぬしの態度が気に入らんのじゃ」「とにかく見合いだけはすっか」「バカタレが」

昭和28年、出所して俺はムショ暮らしが長いから、お前がおかしな気持ちになるのもわかると加津子に言う巌。「元をただせば悪かとは俺たい。怒らんけえ白状せい」「……」「相手は誰なら。親父か」「そげなこつ」「お前と親父が怪しかこと、そころじゅうが言うとるぞ」「ウソです、そげなこつ」「よう考えてみれば、二人の間になんのあって不思議はなかよ」「あったほうがよかとですか」「一度くらいならな」「あんたっちゅう人は」「神様のごたる人がどげな顔して息子の嫁に手を出すか。一度見たか思うてな」「なんもなかですけん、私ら。神様に誓うてもええですから」

昭和39年、逮捕された巌と面会する鎮雄。「週刊誌にあんた、加津子と一緒に手記ば載せとったな。私が至らなかったでいですとか。やめんか、そげんこつ。あんたとおいは関係なか」「今日、神父さんに会うてきたばい。ぬしの破門ば決まった」「今頃破門か。おいの骨はそこらのゴミタメでも捨ててくれ」「……」「それだけか、話は」「わしはぬしば許さん」「誰が許してくれと頼んだか」「わしも神様に許されん。ぬしの血はわしの血ばい。わしん中には悪魔の血が流れちょるねん

加津子もなんべんも抱きたいと思ったが、思いとどまったと言う鎮雄。「わしゃケモノの心ばねじ伏せた。神には背けんけん」「け。カッコだけたい」「そればって、わしも神父さんに頼んで、わし自身も破門にした。じゃけん、わしもうちの墓には入らん」「死んだらどげんする」「どげんするとはわからんとっとよ。巌、破門されても、ぬしは神ば恐れにゃいけんぞ」

俺は神様はいらないという巌。「俺は罪もない人たちを殺した。そいけん殺される。そいでよか。あとは何もなかよ」「それでよかなら、なして今まで逃げ回ってたとか」「俺は己の足で精一杯自由に逃げ回ったんじゃ」「……」「もう帰ってくれ。面会終わりじゃ」「巌、親子のつながりちゅうはこげんもんか」「そうじゃ。死んでもおいはあんたと別々たい。あんたはおいを許さんかもしれんが、おいもあんたを許さん。どうせ殺すなら、あんたを殺せばよかったと思うとる」お前には俺を殺せないと巌に言う鎮雄。「親殺しのできる男じゃなか」「それほどの男じゃなかちゅうんか」「怨みもなか人しか殺せん男たい」「畜生。あんたを殺したか」

昭和44年。鎮雄と加津子は巌の遺骨を山の上から投げ捨てるのであった。