か~こで始まる国枝史郎小説ベスト10 | ロロモ文庫

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長野県茅野市生まれの国枝史郎は早大英文科在学中自費出版した戯曲集「レモンの花の咲く丘へ」を契機に劇作活動にはいり、複数の筆名を用い探偵小説なども手がける一方、奔放な空想力で描かれる時代小説は現代にいたる伝奇小説のさきがけとなりますが、ロロモもサラリーマン時代にノートパソコンで彼の小説を青空文庫で勤務中に読むのを密かな楽しみとしていたわけです。

10位は<サラサラサラと茶筌の音、トロリと泡立った緑の茶、茶碗も素晴らしい逸品である。それを支えた指の白さ!と、茶碗が下へ置かれた。茶を立てたのは一人の美女、帯を胸元に結んでいる、凛と品のある花魁である。むかいあっているのは一人の乞食、ひどい襤褸を纏っている。だが何んと顔は立派なんだろう!>の書き出しで始まる「首頂戴」。9位は<夕飯の時刻になったので新井君と自分とは家を出た。そして自分の行きつけの、と云っても二三回行っただけの黄華軒という支那料理店へ夕飯を食いに這入って行った。「日本人は一人も居ないんだね」新井君は不意にこう云ったが、自分にはその意味が解らなかった。「日本人が一人も居ないとは?」「料理人もボーイも支那人だね……屹度主人も支那人だろう」「何故?」と自分は訊き返えした>の書き出しで始まる「広東葱」。
8位は<文政×年の初夏のことであった。杉浪之助は宿を出て、両国をさして歩いて行った。本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。と、「エーイ」「イヤー」という、鋭い掛声が聞こえてきた。(はてな?)と、浪之助は足を止めた。(凄いような掛声だが?)>の書き出しで始まる「剣侠」。

7位は<「宿をお求めではござらぬかな、もし宿をお求めなら、よい宿をお世話いたしましょう」こう云って声をかけたのは、六十歳ぐらいの老人で、眼の鋭い唇の薄い、頬のこけた顔を持っていた。それでいて不思議に品位があった。「さよう宿を求めて居ります。よい宿がござらばお世話下され」こう云って足を止めたのは、三十二三の若い武士で、旅装いに身をかためていた>の書き出しで始まる「弓道中祖伝」。

6位は<ポンと右手がふところへはいり、同時に左手がヒョイとあがった。とたんに袖口から一条の捕り縄、スルスルと宙へ流れ出た。それがギリギリと巻きつこうとした時、虚無僧は尺八をさっと振った。パチッと物音を立てたのは、捕り縄がはねられたに相違ない。がその時はその捕り縄、ちゃアんとふところへ手ぐられていた>の書き出しで始まる「剣侠受難」。
5位は<「小豆島紋太夫が捕らえられたそうな」「いよいよ天運尽きたと見える」「八幡船の後胤もこれでいよいよ根絶やしか。ちょっと惜しいような気もするな」「住吉の浜で切られるそうな」「末代までの語り草じゃ、これは是非とも見に行かずばなるまい」「あれほど鳴らした海賊の長、さぞ立派な最期をとげようぞ」摂津国大坂の町では寄るとさわると噂である>の書き出しで始まる「加利福尼亜の宝島」。

4位は<初夏の夜は静かに明け放れた。堺の豪商魚屋利右衛門家では、先ず小僧が眼を覚ました。眠い眼を渋々こすりながら店へ行って門の戸を明けた。朝靄蒼く立ちこめていて戸外は仄々と薄暗かったが、見れば一本の磔柱が気味の悪い十文字の形をして門の前に立っていた>の書き出しで始まる「郷介法師」。
3位は<「おいおいマリア、どうしたものだ。そう嫌うにもあたるまい。まんざらの男振りでもない意だ。いう事を聞きな、いう事を聞きな」ユダはこう云って抱き介えようとした。猶太第一美貌の娼婦、マグダラのマリアは鼻で笑った。「ふん、なんだい、金もない癖に。持っておいでよ、銀三十枚……」「え、なんだって?三十枚だって?そんなにお前は高いのか」「胸をご覧、妾の胸を」>の書き出しで始まる「銀三十枚」。

2位は<「あの、お客様でございますよ」女房のお菊が知らせて来た。「へえ、何人だね? 蔦屋さんかえ?」京伝はひょいと眼を上げた。陽あたりのいい二階の書斎で、冬のことで炬燵がかけてある。「見たこともないお侍様で、滝沢様とか仰有いましたよ。是非ともお眼にかかりたいんですって?」「敵討ちじゃあるまいな。俺は殺される覚えはねえ。もっともこれ迄草双紙の上じゃ随分人も殺したが……」>の書き出しで始まる「戯作者」。

1位は<「綺麗な水ですねえ」と、つい数日前に、この植甚の家へ住込みになった、わたりの留吉は、池の水を見ながら、親方の植甚へ云った。「これが俺んとこの金箱さ」と、石に腰をかけ、煙管をくわえながら、矢張り池の水を見ていた植甚は、会心の笑いという、あの笑いかたをしたが、「この水のために、俺んとこの植木は精がよくなるのさ」>の書き出しで始まる「甲州鎮撫隊」となるわけです。