手塚治虫「ブラック・ジャック(119)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

きたるべきチャンス

ブラックジャックのところにある女性がやってくる。「で、病名は」「食道ガンです」「何かやっかいな合併症でも起きましたか」「ほとんど食べ物が飲めこめません。だからやせて。カヘキシーになっています」「カヘシキーという言葉を知っているところを見るとあなたも医者ですね」「ええ。私、兄と病院をやっていますの。食道ガンになったのは私の兄なんです」「ほお」

立派な病院につくブラックジャック。「患者も医者も看護婦もいないじゃないか」「ええ。休ませてます」レントゲンを見るブラックジャック。「なるほど。こいつは厄介な代物だ。でも、解せないな。これだけの病院だ。ほかの医者もいたでしょう。なぜ、すぐに手術しなかったんです。ということは兄上は何か他の医者にガンであることを知られたくなかったんですね。その秘密を世間に漏らしたくない。その点、私なら安心というわけだ。私は金しだいで秘密を守りますからね」

「ええそうです。でも兄にも内緒なんです」「ほう。とにかく口止め料はかなり高いですよ。あなたに払えるかな。ふふふ。とにかく兄上のところに案内してください」女の兄を診察するブラックジャック。「あと10日持たないな。1000万円頂くぜ」「10万クローナでは」「クローナ?それはスウェーデンの金だ。なんでそんな金を言うんです」「10万クローナではどうなんですか」「10万クローナといえば700万円だ。ちょいと足りないな。せめて15万クローナ払いなさい。そうしたら明日にでもオペをしてあげますよ」

女の兄は非難する。「どうしてあんな奴に手術を頼んだ」「だって、兄さんの名誉を失いたくないからよ」「あいつは評判の悪い無免許医だ。たかられるのがオチだ」「兄さん。お願い。手術して」患者の顔に見覚えがあると昔の新聞記事を探すブラックジャック。「これだ。この男。綿引博士。そうだ。ガンの特効薬ポリサチニンを開発したことで、ノーベル賞をもらった若い科学者だ。ガンの特効薬でノーベル賞を取った人間が、ガンに犯されているわけか。なるほどね」

綿引はブラックジャックの手術を受けることを断固拒否する。「今更手術を受けられるものか。新聞はなんて書く。ガンの特効薬なんていい加減なものだった。綿引先生は自分のガンを治せないじゃないか。私は笑いものになるんだ」「やせ我慢して。死んでしまえばおしまいなのよ。兄さん」「とにかくブラックジャックは断わってくれ」ブラックジャックに電話する妹。「あの10万クローナはノーベル賞の賞金ですな」「そうです。賞金をそっくり差し上げるつもりでしたの。でも兄は手術を拒否しました。あしからず」

ブラックジャックはマスコミに綿引博士がガンである情報を流す。「兄の希望で、ノーベル賞はご辞退しました。ストックホルムにはもう知らせました」会見する綿引の妹。その会見に出席するブラックジャック。綿引は水をブラックジャックにぶっかける。「貴様は情こころというものがないのか。私にはノーベル賞受賞者としてのメンツがあったのに」ぶっ倒れる綿引。

「すぐオペだ。あなたは助手を」「あなたには手術をお断りしたはずだわ。それにもう10万クローナお払いできませんもの」「なぜ払えないんです。兄さんが助かれば、いずれ払えるじゃないですか」ブラックジャックは綿引の食道ガンを摘出する。それから一年がたつ。ラジオがニュースを伝える。「今年のノーベル医学賞を日本の綿引博士が再び受賞しました」

「昨年博士が受賞した時は、博士自身がガンに犯されたこともあって賞を辞退する結果となりましたが、その後博士のガンも治り、さらに研究を重ねた結果、博士の開発したポリサチニンの数倍の効果を持つネオポリサチニンを発表し、人体実験の結果、その効果が絶大であることが認められました」

綿引の妹と会うブラックジャック。「手術代の請求書を持ってきました。今度こそ賞金がはいるんでしょう。15万クローナもらいます。そのうち14万9990クローナは受賞のお祝いに贈りましょう。だから差し引き10クローナ頂く」「先生。せめて兄に会ってください。兄はすっかり元気になって」「私はノーベル賞の人間なんか興味はないんでね」「もう、お会いできないの」「……」