手塚治虫「ブラック・ジャック(55)」 | ロロモ文庫

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イレズミの男

「あなたの手術された患者のことについて是非会いたいのです。R大学医学部の113号室まで13日13時に来てください」という手紙を受け取るブラックジャック。ブラックジャックは法医標本室にはいる。そこには見事なイレズミの標本があった。ブラックジャックは標本室に閉じ込められる。「外から鍵をかけたよ。先生」そこにはサングラスをかけた男が。「驚かなくていいですよ。先生に手紙を出したものです」

イレズミを見入る男。「素晴らしいイレズミだ。多分世界一だろうね。あんまり惜しいから大学で死体から皮をはいで保存したんだ。その皮の主を勿論知っているだろう。先生。あなたが手術したある男の皮だよ」「香取仙之助の皮か」「その通り」香取仙之助は二年前死んだ。彼は配下7000人を持つやくざの親分であった。その仙之助は腎臓がんになったが、彼はなぜか手術するのを嫌った。思い余った仙之助の妻はブラックジャックを呼ぶ。

仙之助のイレズミに感動するブラックジャック。「見事だ」「でしょう。先生。こんなイレズミの人間は世界に2人といないぜ。先生、わしは何のとりえもないゲスの人間だ。だが死ぬ時、ひとつだけさすが香取仙之助というものを残してえ。それがこのイレズミです。このイレズミに傷をつけたくないんだ。少しでも傷がつくと値打ちもなくなる。わしの誇りも傷つくわけだ。だから手術はごめんです。体を切るくらいなら、このまま死んだほうがましですわ」「なるほどね」

仙之助の妻は仙之助を助けて、とブラックジャックに頼む。「切らなければ手術できませんよ」「イレズミのないところを切れませんの」「冗談じゃない。全身がイレズミなんです。じゃあ」「先生。待ってください。あの人を見殺しにしないで」ブラックジャックは仙之助の手術をすることに。「くどいようだが、先生。わしを裏切ってちょっとでもイレズミに傷つけば、わしの身内が黙っていないよ」「脅かすつもりか」「男の約束でさあ。先生も男だろう。わしゃ裏切り者は絶対に許せねえタチなんだ」ブラックジャックは手術を終える。

「香取仙之助はいったん全快した。そして二年前に死ぬまで、手術のあとは誰にも見せなかった。いや、死んでも皮になってもまだ誰一人傷跡を調べた者はいないんだ。秘密を知ってる者は夫人だけだった。その夫人も五日前に亡くなった。今こそ傷跡を確かめる日が来たんだ」「お前さんは子分かい」「俺は息子の洋一だよ。俺はやくざじゃない。だが親父が一番気にしていた傷がもし皮についていたら、俺だって許すことはできないね」

洋一は標本のイレズミを調べる。「どういうことだ。傷跡がないぞ。そんな馬鹿な。本当に手術をしたんですか。手術のあとがあるはずですぞ」「何でもないことさ。傷を残さないように切ったのですよ。鋭利な刃物で皮膚や筋肉の走る方向に沿って切れば、塞がれた傷口はすっかりなくなってしまうものだ。但し、よっぽどすばやく正確に切らなければならん」「だが、やっぱり親父を裏切ったんじゃないか。親父はきっと先生を憎んで死んだに決まってる。待てよ。ここにへんなイレズミがあるぞ。これは後から入れたものらしいぞ。何か言葉が彫ってあるんだ」そこには、ブラックジャック先生ありがとう、と彫られてあった。「親父さんの遺言だね」