手塚治虫「ブラック・ジャック(6)」 | ロロモ文庫

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鬼子母神の息子

「この誘拐魔の手口は全て同じでありまして、学校帰りの子供を巧みに誘って麻酔薬をかがせるのです。そして身代金を要求し、要求をのまないと子供の親に指を一本切って親に送るという世にも残忍な手段をとっています」本当に嫌なニュースね、と話し合う二人の夫人。「お宅なんか大きな屋敷だからご用心あそばせ」「あら、南米帰りの父が作った家ですもの。なにもありませんわ。さ、伊佐男ちゃん、帰りましょう」

伊佐男は母に聞く。「ねえ。ママ。人さらいってどんな顔なの」「きっと鬼みたいな顔だわ」しかし伊佐男の母は誘拐団のボスだった。子分たちがやってくる。「多良福物産の社長の子供は」「へい。ナンバー3アジトにぶちこんであります」「そんなことより親からの返事はまだないのかい。しかたない。指を一本送ってやんな」「あの子はまだ小さいですぜ」「いいかい。この仕事は情けは無用なんだ。子供を人間と思うんじゃない。品物と思うんだ」

部下はアネゴは警察に疑われている、と忠告する。「こんな豪勢な家をどうやって住んでいるのか、下田警部が怪しんでいるって話ですぜ」「そうだねえ。誤魔化す手はないかね」「ひとつあるんだ。アネゴの子供をさらうのさ」「なんだって。わたしの可愛い伊佐男をさらうんだって」「そうよ。そしてアネゴは身代金を積むんだ。すぐに子供は帰るし、アネゴは被害者だって気の毒がられる。まさかアネゴを人さらいと思わないよ」

伊佐男は誘拐され、下田警部は早速手配をする。顔を隠して伊佐男の様子を見に行く伊佐男の母は伊佐男の持っていたナイフで右腕を刺される。「わが子に刺されるなんて、もう年貢の納め時ね。傷の跡がつくわ。あの子が私の腕を見て気づくわ。どうしよう」「傷口をまるで消してしまういい外科医を知っています。もちろん秘密は大丈夫で」伊佐男の母はブラックジャックのところに行く。

ブラックジャックは手術を開始する。「奥さん。鬼子母神の話を知っていますか。鬼女ですよ。人間の子供だけをさらってその肉を子供に食べさせたそうです。500人も人間の子供を殺したそうです。ところがお釈迦様が怒って、鬼子母神の子供を隠してしまった。鬼子母神は狂ったようにわが子を捜し求めた。それを見て、お釈迦様は『人間の母親も子供をなくした悲しみは同じだ』とさとしたので、彼女は泣いて悔い改めたそうです」

「わかりますか。奥さん。一番可哀想なのは、あんたの子供だ」ブラックジャックは手術を終える。「貴様、アネゴの顔になにをした。顔までいじれとは言わなかったぞ。殺してやる」「フフフ。私を殺すとあとの治療は知らんぜ」「およし。片付けるのはいつでもできるわ」「そうとも。いずれ私に感謝することになる。ふふふ」

家に戻った伊佐男の母に下田警部が聞く。「その顔はどうしたのです」「ええ。車に衝突されて。本当にひどいことが続くものね。「お金をおろしてきましたわ」「もう、その必要はありません」「えっ」「息子さんは救出されました」「なぜ、いる場所がわかったんですか」「お前のハイヒールに探知機を隠しておいたのだ。お前がどこへ行くか手にとるようにわかったぞ。観念しろ。人さらいめ」「うちの子はもうすぐここに戻ってくるのですね」「会うかね」「私が人さらいとわかったら。あの子には会えません」「でも、お前の顔はテレビにも出るし、新聞にも乗るぞ」

伊佐男は帰ってくる。「ママ」しかしそこには旅行に行く、という書置きがあった。テレビで誘拐犯逮捕のニュースが流れる。「一味は4人で、首領は女性です。これが首領の女性です」しかしブラックジャックが手術したため、その顔は醜くなっていた。「すごい憎たらしい顔だ」とうめく伊佐男。伊佐男の母に語りかけるブラックジャック。「刑期を終えて子供のところに戻る時、うちに来い。元に戻してやるぜ」