福本伸行「賭博黙示録カイジ・限定ジャンケン編(1)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

希望

1996年2月。東京に来て3年。カイジは最悪だった。正月を明けてから、一日も働いていない。しょぼい酒としょぼい博打の日々。そんな毎日の鬱憤イライラをはらすために、違法駐車している車にイタズラをしてまわるという空しい日々。カイジのアパートに遠藤という中年男がやってくる。「古畑武志。知っているよね」「ああ。確か一年くらい前のバイト仲間。でも今は全然会ってなくて」

遠藤は古畑が逃げたとカイジに告げる。「後に残されたのは、サラ金を中心に奴が借りまくった十数件の焦げ付いた借金。その中のひとつが、これだ」それは古畑が未成年のためカイジが保証人となった30万円の借用証であった。「思い出したか、カイジ君。残念だが借りた本人が消えちまった以上、この債務が保証人のお前が支払うことになった。月々少しずつでいいんだ」「少しずつって、30万円返すってなったら」「ククク。冗談きついんだから。カイジ君」「え」

「借りた金には金利がつくんだよ。古畑は元金金利一円も払わず、ドロンした。この契約書を見てみ。月20%の複利となっているだろう。この金利で今月で14ヶ月目。14回転がったことになる」「いくらなんですか」「ククク。385万だ」驚くカイジ。「どうして、サラ金業者はこんなになるまでほっといておくんだ」

「鈍いな。カイジ君。おまえ、はめられたんだよ。間違いなく、そのサラ金と古畑はグル。これは古くからある連中の手なんだ。もうコツコツ返すしかねえな。月6万として、385万返済し終わるのに11年。思ったより短いじゃないか。額に汗して働けばすぐさ」蒼ざめるカイジ。

遠藤は本題にはいると切り出す。「一ヵ月後に晴海の埠頭から船が出る。船の名前はスポワール。フランス語で希望。今、この船に乗る参加者を募っている。その船で一夜、うまくしのげば、お前の借金は一日でチャラになる」「チャラ?」

「お前のような行き詰まった若者を集めて、一夜限りのギャンブルクルーズ。負ければさらに借金を背負い込み、その船に乗ったまま、某所に連れて行かれ、おそらく1,2年はシャバに戻れない。しかし勝てば、借金は一切チャラで、その上プラスになって船を降りる者も何人かいる。カイジ、おまえ、これに乗れ」

 

岐路

カイジは遠藤に質問する。「二つあります。一つは船中でするギャンブルは何か。あと負けたとき、某所で強制労働みたいなことをするみたいだけど、いったい何をするんですか」その質問には答えられないという遠藤。「船の中で何をやるかは公平を期すために答えられない。あと負けた時の処置については、俺は知らないんだ」

そんないい加減な、とわめくカイジに安心しろという遠藤。「このギャンブル船は、若き負債者の救済が目的なんだ」「救済?」「一夜限りのギャンブルで勝てば、借金はチャラ。仮に負けたとしても10年以上も生かさず殺さずの借金に縛られて暮らすより、寮のようなところで規律ある暮らしをし、集中的に借金を返済したほうが、未来ある若者にとってどれだけましかわからない」「はあ」

遠藤はカイジがこのクルーズにぶちあったったことはラッキーと言う。「お前の毎日、ゴミって感じだろう。無気力・自堕落・非生産」「まあ」「どうしてそうなのかわかるか」「それがわかれば」「教えてやろう。金がないからだ。金を掴んでないから毎日がリアルじゃあねえんだよ。バスケットのゴールは適当な高さがあるからみんなシュートの練習をするんだぜ。あれが100メートル上空にあってみろ。誰もボールを投げようとしない。今のお前がそうだ。届かないゴールにうんざりしているんだ。勝て、カイジ。勝って大金を掴め。人生を変えろ」

カイジは船に乗ることを決意し、乗船契約書にサインする。

 

漆黒

1996年3月4日。漆黒の晴海埠頭にやってくるカイジジはボディチェックを受けて、エスポワールに乗船する。そこにはマイナスのオーラに満ちているダメ人間で溢れていた。そこに黒服の男たちがやってくる。「まもなく第三回クリエイティブクルーズは出港します。その前に皆様に一つ決定してもらいたいことがあります」「え」「それは、これから行なうギャンブルの軍資金であります。皆様は無一文。我々の方で、軍資金を用意しました。これからその軍資金の貸付を行ないます」

ざわめく一同。「資金は制限させていただきます。上限は1千万で下限は百万。この貸付金の金利は利率1.5%の10分複利とさせていただきます。このクルーズは4時間ほどの予定。予定通り進めば借りた額に4割ほど上乗せして返して頂けば結構、という非常にリーズナブルな金利となっております」

どこの世界に10分複利なんて話がある、と騒ぐ一同。「殺すぞ。悪党」「とんでもない。若き負債者を救済するためにこのクルーズを企画した我々が悪党のはずがない。我々は皆様に借金一括返済という未曾有のチャンスを与えているのです。貸付金を4割アップで返すくらい、その未曾有のチャンスを考えれば安いものです」

 

出航

皆仕方なしに金を借りていく。みんな百万ずつ借りていくのを見て当然だと思うカイジ。(高い金利を払って金を借りる必要がどこにある)しかし船井という男は1千万借りる。「どいつもこいつもボンクラ。何をやるかわからんちゅうに」それを聞いてはたと気づくカイジ。

(今はただ勝つことを考えればいい。今日のギャンブルだけは負けられない。あの船井って男、冴えてる。まだ何をやるか俺たちは知らない。ポーカーみたいに金が物を言うギャンブルもある。ギャンブルを打つ者にとって、金は寿命。そうだ。限度までいこう)1千万借りるカイジ。

参加者全員の上着の左胸にマジックテープがつけられ、紙袋A・Bが渡される。そして船は動き、参加者はプレイホールに連れていかれる。そこには無数のボックス台と、TIME4:00:00、G412、C412、P412と書かれた電光掲示板があった。

利根川という男がギャンブルの説明を始める。「説明は一度のみ。繰り返しません。まずAの袋を開封してください。その中には12枚のカードがあった。「それが今夜皆様に命運を握るギャンブルの種目でございます」馬鹿な、と蒼ざめるカイジ。それはグー、チョキ、パーと書かれてあるカードであった。

説明する利根川。「我々は考えました。何が公平なギャンブルになるかを。そしてその結論がジャンケンでした。但し通常のようにグーチョキパーを無制限に出せない。それぞれ4回ずつとカードによってその機会を限らせていただいた。最初にグーを連続4回出したら、もうグーを出せないということです。言うなら限定ジャンケン」カイジに予感が走る。(この勝負は運否天賦じゃない。勝つのは知略走り、他人を出し抜ける者)