手塚治虫短編集(35) | ロロモ文庫

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2から2を消せば2

モノレールが走り、原子力自動車が飛ぶⅩ年後の世界。何もかも変わってしまった世の中にただ一つ、どうしても変わらないものがあった。それが悪の根だった。

「どなたです。お父さんはもう寝てしまい。あっ」「そのおねんねの場所へ案内しな、坊や」「夜中に悪かったな、ボグ博士」「あんたは大親分のデキシイ。何をするんじゃ」「わざわざ俺がお出ましなんだ」「帰れ。科学はあんたのような悪人のためにあるのではないぞ」「うるさい、博士、覚えているかい。俺と瓜二つの替え玉ロボットを作ってくれと頼んだな」「きっぱり断ったはずじゃ」

「博士、あんたの息子さんを痛い目にあわせてもいいのかい」「うるさい。なんと言っても、わしは断る」「おい、やれ」「トニー、拷問なんかに負けるな。がんばれ」「ううっ」「おい、平気なのか、博士」「……」「面倒だ。ガキを殺してしまえ」「待ってくれ。それだけは勘弁してくれ。わかった、あんたの言う通りにするから」「じゃあ、俺とそっくりのロボットを作ってもらえるかな」「明日の昼までにロボットを届ける」「必ず届けろよ。このことは誰にも内緒だ」

「トニー、大丈夫か。ひどい目にあったな」「ええ、大丈夫です」「デキシイは大した悪党だ。あいつなら確かにロボットを作ってやるだけの価値はあるな。トニー、手伝ってくれ。すぐ始めよう」「はい」「なあ、トニーや。デキシイがお前をナイフで傷つけようとした時はビックリしたよ」「フフフ、傷つけたら面白かったのに」「冗談言っちゃいかん」

「親分、博士から届きましたぜ」「やあ、こんにちは」「驚いたな。まるで生き写しだ」「貴様はたった今から俺様の身代わりだ。いいか、東地区のランプ親分と俺は縄張り争いをしてるんだ。ランプは俺の命を狙ってる。いつ、殺し屋を俺のところに差し向けるかわからねえ。お前は俺の代わりに毎日俺と同じ生活をしろ。俺はしばらく田舎に隠れる。ランプはお前を俺と信じ込む。殺し屋はお前を襲う。俺は安全だ。いい考えだろう」「仰る通りにします」

「失敗しました。デキシイを撃ちもらしました」「なに」「確かに撃ったつもりでしたが、デキシイは無傷でした」「間抜けめ。デキシイはきっと仕返しに来るぞ。俺の命を狙ってくるぞ」「いいことがあります。ロボットで身代わりを作るんです。ボグ博士に頼むんです」「よし、その博士のところへ行こう」

「親分、博士から届きましたぜ」「やあ、こんにちは」「驚いたな。まるで生き写しだ。貴様は今から俺の身代わりだ」「仰る通りにします」

「ふふふ、今頃は町でロボットがうまくやってくれてるだろうな。あ、しまった。俺はバカだった。何故こんなことに気がつかなかった。ランプのヤツ、博士に替え玉を作らせるかもしれないぞ。そうだ、博士を片付けないといかん。今すぐに」

「来たね、デキシイ。何しに来たかはわかってるよ。秘密を隠すために、このわしを殺しに来たんだろ」「その通りだ、気の毒だがあの世へ行ってもらう」「そりゃ無理だな」「なに」「わしはあの世に行けない男なのだ」「えっ」「それにな、あんたのようにもう一人の男にも替え玉を作ってやったが、その男もわしを殺しに来とるよ。ほら」

「デキシイか」「あっ、ランプ」「死ね」「そっちこそ死ね」

「バカな人間たちじゃなあ、トニー」「ええ。もしもし、デキシイ。本物は死んだよ」「ほう、死んだかね。連絡ありがとう」

「やあ、ランプ」「やあ、デキシイ」「本物は死んだよ。そっちはどうだい」「ああ、俺の本物も死んだ」「じゃあ、これから我々が本物として暮らせるんだな」「ああ、人間並みにね」「はっはっは」

「くだらない人間は全部自滅させてロボットと入れ替える。その方が世の中にとってためになるからな。これがわしの仕事だ。さ、トニー、ひと仕事終わったから、体の掃除でもしようか」「はい」頭を開けて、電子頭脳についたほこりをブラシではらうボグとトニー。