ラズウェル細木「酒のほそ道・夏の酒スペシャル(1)」 | ロロモ文庫

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江戸前の夏  

居酒屋に行く宗達。「こんちわ」「おー、宗達さん」「マスター、ビール。暑かったねえ、今日は。梅雨の中休みとは思えないな」「ハイよ、穴子のきじ焼き」「おっ、これはもしかして、今が旬の江戸前の穴子かな」「そう」「うん。外側カリッと、中はジューシー。最高」「ハイ。お次はシャコ。こいつも江戸前」「この時期のシャコは子を持ってるんだよな。うんうん、卵がコリコリして絶品。あー、夏だなあ」

「ハイ、車エビのおどり。もちろん江戸前」「うんうん。プリプリでまさしく口の中で踊ってるよ。マスター、夏の江戸前スターがそろい踏みだね」「ところで宗達ちゃん、その大荷物なに?」「え。これ?そうだ、マスター、奥の座敷に移っていい?」「え」

「こんちわ。あれっ、宗達来ていない?待ち合わせしてたのに」「いるよ」「あ」「ようこそ、竜ちゃん。宗達夏屋敷に」「へえ、すだれに風鈴に蚊取り線香、それに浴衣か」「取引先のイベントで使った小道具をもらってきたんだよ」「へえ。なかなかいい風情じゃないの」「家のベランダにセットしようと思ったけど、こっちの方がピッタリだよな」

「ハイよ、江戸前のアオリイカ」「マスター。ひと夏、ここで暮らしてもいいかな」「ああ、いいよ。その代わり、家賃高いからな」

<夏場、時々思い出したように浴衣を着るが、はっきり言って、あまり涼しくない。ランニングに短パンの方がはるかにクールだ。うちわは生温い風が移動するだけで、エアコンにかなわない。スイカは川や井戸で冷やすより、冷蔵庫の方が冷たくなる。江戸風鈴はカタカタうるさくて、暑苦しい。すだれをたらしてると風が通らない。狭い路地に縁台出しても、熱気がこもって涼しくない>

<江戸の夏の暮らしは今より確実に暑かったはずだ。だけど、そうした昔の納涼スタイルの方が、随分涼しそうに思える>

<実際、気分的に昔の方が絶対涼しかったと思う。エアコン強にすればするほど、冷蔵庫でスイカを冷やせば冷やすほど、暑さが増すような感じがするのはどうしてだろう>

<酒もそうだ。冷蔵庫で冷やした冷酒より、冷暗所に置いてあった常温の酒の方がはるかに清涼感がある。でもビールだけはキンキンに冷やしてほしい。江戸にはビールはなかったし>

 

餃子六変化

中華料理屋に行く宗達。「ハイ、ビール」「蒸し暑い曇りの日に冷えたビール最高」「ハイ、どうぞ」「おー来たか、餃子ちゃん。まず一つ目は何もつけずに。二つ目は醤油だけで、三つ目はラー油を加える。四つめはさらに酢を足して。これぞ宗達流餃子味変化。もり蕎麦の通な食い方にヒントを得たんだよ。さて、五つ目は。立て込んでるみたいだし、気長に待つか」

「遅くなってすみませーん。ハイ、ラーメンね」「来た来た。待ちかねたぞ。おばさん、ビールもう一本」「ハイよ」「さて、五つ目はラーメンのスープと一緒に。そして六つ目はラーメンに入れてふやかす。やっぱ、休日の昼はこれに限るなあ」

<こういう餃子の食べ方は、ごく普通の中華屋でやっていただきたい。理想的なのは、商店街の電気屋か時計屋の隣で、雷紋にラーメンもしくは中華そばと染められたのれんが下がり、ラーメン、タンメン、チャーハンを基本に、せいぜいカニタマ、エビチリが一番高いメニューで、近所の工事現場の人たちが、半チャンラーメンを食っているような店であある>

<テレビでは午後のワイドナショーがついていて、隣のテーブルから、ホチキスで背中止めてあるスポーツ紙の芸能欄か、一般紙の家庭欄または投書欄でも読みながら、ゆっくりと餃子をつまみ、ビールを飲みながら、ラーメンを待つのである>

 

梅雨の飲み屋

かすみと居酒屋に行く宗達。「梅雨ってあんまりうまいモンないよな。旬のものって言うと鮎くらいか」「鮎によくあうお酒って何があるかしら」「そうさなあ」

「あ、入れる、入れる。皆さん、入れますよお」「よかった、よかった。雨の中、歩き回るの、やだもんな」

「結婚式帰りの集団か。さすが6月ね。でもいくらジューン・ブライドって言っても、雨の中の結婚式ってどうなのかなあ」「……」「ねえ」「あ、うん」「そういえば、宗達さん、鮎の姿寿司って食べたことある?」「……」「ちょっと、どうしたの。急に上の空になって、人の話聞いてないじゃない」

「あ、いや。実はオレは持ってきたあの傘、アレ、課長のなんだよ。一見、オレの傘とそっくりで、うっかり間違えて持ってきちゃったけど、オレの安物だけど、課長のはブランド品でさ、なくすとヤバイんだ。でも、こうゆうとこの傘立てって、よくなくなるだろ。だから、あの集団が入ってきた途端に、心配で」「じゃあ、コッチの席に来れば?ここなら傘立てが見えるよ」「ホントだ。ここなら真正面に見えて安心だ」

「鮎の塩焼き、お待ち」「おー、来た来た。鮎の中骨の抜き方、知ってる?」「知らない」「これはこうやって、身をグニグニってやってさ」

「じゃあ、オレ、先に帰るわ」「お前、だいぶ酔ってるから、気をつけろよ」「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

「わー、ホントだ。中骨が抜けたわ」「ホーラね」