福本伸行「最強伝説黒沢(3)」 | ロロモ文庫

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日曜日

(朝、汚い自分のアパートで目が覚めて、ああそうだ、今日は日曜日だ、そう自覚すると、少し途方にくれる。やることなし。寝ようかな、もう一度。しかし、ここで寝ると、あとでまた寝過ぎの頭痛が)スーパーに買い物に行く黒沢。(いつの頃からだろう。カップルは気にならなくなった。それより目に痛いのは子供連れだ。俺の人生はまともに推移していれば、今ごろは、まあ、考えてもラチないことだが)

公園でビールを呑む黒沢。(公園では注意する。メーンの広場の方には行かぬように注意する。他の連中から見ると、俺はいわゆる不審者らしく、そんな目にさらされながら、そこに居座る理由もなく、この団地の陰側が俺の指定席だ。公園に限らない。喫茶店に行こうが、映画館に行こうが、俺たち未婚の中年独身者は、妙に浮いてしまって居場所がない。この肩身の狭さってなんだ。本当、みんなどうしてるんだろうな)

黒沢は幼児が公園に置いてけぼりにされているのを見つけ、幼児の靴を見る。「菊地?菊地っていやあ、確かあそこの角の家」幼児を抱えて角の家に行く黒沢。「あ、なんだよ。池のほうの菊池かよ。まいったなあ。交番は駅の方だろ。遠いよな。くそ、面倒くさいな。預かってくれねえかな、この家。似たような名前なんだし。っていうか、置いていくか。ピンポンならして」

幼児は黒沢の顔をだあだあ言いながらいじる。「やめろ。こら」「ああ。ああああん」号泣する幼児。「悪かった。こら泣くな、男だろ。いや、男かどうか知らんが。ともかく泣くな」「あああああ」(まいった。まいったけど、でも、いいのか。泣きたくなったら、泣けば)幼児に飴を与える黒沢。飴をなめて笑顔を浮かべる幼児。「ハハハ。単純野郎め」(くそっ。どうにも羨ましいぜ)「どうだ。公園に戻ってみるか。探しに戻ってるかもしれねえぞ、母ちゃん。そうだ、それがいい」

公園で幼児と遊ぶ黒沢。「陽は高い。来るさ、母ちゃん。夕方までには。万が一、来なくても、俺がいる。問題ない。何の問題もないぞ。菊坊」

 

未来

公園のベンチで菊坊を抱いて横たわる黒沢。(ああ、いい風だなあ。幸せだ。そして、なんて心地いい重さなんだ。詰まってやがるんだな。こいつの身体にはこいつの未来が。そう、こいつは俺と違い、これから大きくなる。幼稚園に行き、小学校に上がり、運動会や府警参観があったりして)

(で、身体を強くするためにスイミングスクールに通ったりするんだよな。バレンタインデーにチョコもらったり、卒業式で泣いたりするんだ。おいおい、もう中坊かよ。バイク?ってことは、高校生か。え?なんだ、背広なんか着て。会社訪問?就職かよ、おい。早いよ。早すぎるよ、菊坊。菊坊)

寝ざめた黒沢は、自分が警官たちに取り囲まれているのに気づく。(なんか非常によくない予感は、するんですけど。誤解だよ。俺は迷子の世話しただけだよ。こんなことでひょっとして、幼児誘拐、懲役?冗談よせよ、俺だって未来があるんだよ)「あの、随分お集まりですが、何か」「気づかれた。突入」「ち、ちょっと」「子供確保。容疑者確保」「ふざけるな、てめえら。俺たちはうまくいってたんだ。何がわかる、赤の他人に」「ふざけんな。お前も他人だろ。っていうか、容疑者だろ」

警察署に連れて行かれた黒沢は、誤解されていたことが判明し、すぐに釈放される。(はああ、さんざんな一日だったな)飴をなめながら泣く黒沢。「ちぇ。なに泣いてんだよ。俺は」

 

任務

黒沢は社長の指示により、山の現場を外され、交通誘導員として貸し出される。(社長は今日、急にどうしても一人都合してほしいと泣きつかれたそうだ。これも助っ人と言えるけど、その役、何も俺でなくてもいいわけで、それをわざわざ俺にしたってことは、戦力外通告っていうか、少なくとも。あの現場では邪魔、いらないってことで)

昼休みに弁当を食う黒沢。(社長はよく見ている。要するに仲間外れ。俺一人浮いていた。あのアジの一件がまったく裏目。実は俺がアジをこっそりふるまったことは、後日みんなも知ることとなり、当然、赤松のアジを盗ったという誤解も消え、それはまあよかったんだが、そもそも皆に弁当にアジを入れてまわったという行為そのもの、これが異様。早い話が気味悪がられ、逆にひかれた)

足立という老作業員が、元気ねえときはパンティだよな、と呟く。「は」「駅の階段とか歩道橋で、女子高生、パンティが見えると嬉しいんだよな」「ちょっと、なに言うの、足立さん。危ないな」「そんなんじゃないよ。道端でたんぽぽ見るようなもんだから。癒しなんだな」「おいおい。はははは」ほんわりムードとなる作業員たち。

そこで責任者の太田が嬉しそうに言う。「それはいやしじゃなく、いやらしだろう」呆れる黒沢。(なんでまた、そんなつまんないことを、この親父は。しかも得意満面。どうだって顔)そして太田と目が合ってしまう黒沢は、追従笑いをする。(この笑いで確実に俺の免疫細胞が死滅していくのを感しる。ここもなじめねえな)

どっと疲れて、帰りの電車に乗る黒沢は、目の前にいるグラマーな女の胸に触りそうになる。(電車は危ない。何が起こるかわからん。もう少しで悪魔に魅入られ、エロハンド。人の道からはずれたことを)駅のホームでは新興宗教の男が世界は滅びますと演説する。それに聞き入っている自分に気づく黒沢。(聞き入ってる。ダメだ。今日の俺はとことんダメだ。寝よう。こんな日はさっさと帰って)

アパートに戻って、異様に疲れていることに気づいた黒沢は、体温を測り、38度熱があることに気づく。そこに電話が鳴る。「はい、黒沢」「黒沢さんですか」「え、赤松か」