呼び声に反応して、無敵の戦士が動き出した。
「来るわ!ビビドライガー焔の一号機よ」
「焔の一番機……」
カッ!
太陽を背にビビドライガーが地上に降り立つ。
その体は真っ白。まさに白猫といった見た目。お世辞にも強そうではない。
大河は不満そうに文句を言った。
「おい、ビビッドってわりには何で真っ白なんだ」
「あなたが乗ると色がつくのよ。あなたの魂を輝かせるキャンパスなのよ」
ビビドライガーは着地したままピクリともしない。
渚が急かした。
「さあ、早く乗るのよ!戦うのよ!」
「の、乗るったって」
大河はどこから入るのかわからず、うろうろする。
しかし、敵のロボットは待ってはくれない。傍らにある車をつかむと、ビビドライガーに向け、投げ飛ばした。
ズガシャアアァン!
クルマのボンネットがビビドライガーの胸に突き刺さる。
大河はとっさに少女の頭を抱え、破片からかばう。
車のフレームはひしゃげ、パラパラとフロントガラスが落ちてくる。
車は地面に墜落し、もはやただのがらくたに成り下がった。
車がこんなになるくらいだ、ビビドライガーもただではすまないだろう。
そろり、と大河は心配そうに見上げた。
しかし、ビビドライガーは無傷だった。純白の巨人の戦士は何事もなかったかのようにたたずんでいる。
「す、すげえ」
「当たり前でしょ!天下のビビドライガーがこんなの効くわけないじゃない」
敵が無傷だったことに、人形は明らかに動揺している。そのずんぐりした巨体を軋ませながら、次々に車を投げ続けた。
ガシャガシャと立て続けにビビドライガーに衝突する。
しかし、無傷。
ビビドライガーはそんな攻撃眼中に無い、とでも言うように、びっくりするくらい何ともない。
敵のロボットが痺れを切らしてこちらに投げてきた。ビビドライガーが無傷なら、操縦士を殺せばいい。利にかなっている。
しかし、大河たちはたまったものではない。
「やばい、逃げろっ」
大河が渚の手を引く。二人は駆け出した。
「あうっ」
渚が転んでしまった。これでは逃げられない。
「し、死ぬ!」
車はすぐそこまで迫っていた。
ぎゅっと目をつむる。
ガシャアアアアン!
激突。
しかし、痛みはない。なぜ?
もうもうと立つ土煙が晴れると、驚くべき光景が広がっていた。
ビビドライガーが敵に背を向けるようにして両手を一杯に広げ壁となり、二人をかばったのだ。
今まで沈黙を貫いていたビビドライガーが遂に動いたのだ。
「ビビドライガー……」
ビビドライガーのゴーグルに覆われた瞳が怪しく光る。
「俺に、乗れって言ってるのか」
瞳がうなずくように光ると、バカンッと胸のハッチが開き、リフトワイヤーが降りてきた。
大河はそれをつかもうとした。
その時渚が叫んだ。
「待って!私も乗るの!」
「はあ?お前なんかのせれるのか?」
「1号は唯一の複座シートなの!サポートさせて!」
そういうと、大河に抱きついた。一緒にワイヤーで引っ張りあげろと言うことらしい。
「勝手にしろっ。」
ワイヤーがするすると登り、二人はコクピットに入った。
うしろの席は何もない。いや、違う。ボタンがひとつだけある。
コクピットの壁全面に広がるのは、全体を見渡せる360度のオールビューモニター。
前の席には、操縦桿と無数の計器。
「すげえ」
おもわず大河は声をあげる。
渚はうしろの席、大河は前の席にそれぞれ座る。
ブンッ
だんだんと機体が真っ赤に染まる。
大河がレバーを握る。
両手からビビドライガーの熱を感じる。こいつは今にも闘える。
どう操縦すればいいのかわかる。痣が教えてくれる。
「いくぜ!猫型兵器ビビドライガー!」
大河がおもいっきりレバーを倒す。
「いっけぇー!」
ビビドライガーが空へと跳躍。高い。軽々とビルを飛び越し、敵からは太陽のなかにいるように見えるような角度へ一気に上昇。しっぽをピンと張りながら、200メートルは離れていた間合いを一気に30ほどに積めた。敵は慌てるばかりで何もできない。
太陽から飛び降りた戦士は、30ほどの距離を一歩で積めた。その地面すれすれを舐めるような跳躍で、上半身は一切ぶれない。これは、古武術でいうところの"縮地"である。
ビビドライガーは一瞬で懐に入ると、渾身の拳を敵に叩き込んだ。
「だりゃあっ!」
左ジャブ!
ズガン!
「があぁっ!」
そのまま右、左と交互にワンツースリー。
最後に右アッパー。
相手がよろけたところで、左回りに体をひねり、右足でハイキック。
相手の肩あたりをベコッと凹ませる。
相手がたまらず後ろ歩きで後ろにさがる。
渚が叫んだ。
「逃がしちゃダメっ」
「わかってるっ」
ガッ
大河はレバーを倒す。
ビビドライガーは、まさに猫科の野獣の加速を見せて肉薄する。
そしてそのまま敵の五歩前で跳躍した。右足を90度に開き、右膝をつき出す。そして、右膝を振りぬく。突進の勢いを得た大腿部で敵を粉砕する。
全体重をのせたヘビィな一撃が炸裂した。
プロレスラー武藤敬司が2001年に初披露した、奇跡の大技、シャイニングウィザードである。
倒れた敵に止めの一撃。
「これで最後だっ!」
ビルに飛び乗り、後方270度回転してのボディプレス、ムーンサルトプレスである。
ずどおぉぉんっ!
敵はぺしゃんこだ。
ビリビリとショートしている。
ピクリともしない。
いきなり敵の口が開き、閃光弾を打ち上げた。
パァン!
「な、なんだ?」
大河は気味悪くなり、後ろへ下がる。
カッ!ドドォーン!
敵は爆発した。
「ざっとこんなもんだぜっ」
大河は得意気に言った。
ビービービー!
警戒のビーコンが鳴る。
「な、なんだ?」
「増援よ!さっきの閃光弾が合図だったんだわ」
上空から、さっきの敵と同タイプが3機降りてきた。
「ピンチよ!一時後退よ」
「何言ってんだ?バカか?」
「は?ちょっと」
「どんなピンチも"尾も白く"!それがこの尾白大河のモットーよ!」
「こんなときに駄洒落とか何考えてるのよ!バカはあなたよ!」
「俺は本気だ」
大河は真っ正面の敵を睨み付ける。
ビクッ
渚は大河の敵に向ける殺気に押されて何も言えない。
「おい、武器はないのか?」
「左の操縦桿のボタン!」
「こいつかっ!」
ジャキーンっ
戦士の左の甲から、三本のカギヅメが飛び出す。
「いくぜっ!」
ジャンプ!間髪入れずにジャンプの頂点で胸を目一杯広げ、左手を振りかぶる。
落下と同時に降り下ろす。敵一体が真っ二つになった。
残心。
爆発の直前に飛び出す。
爆発。
後、2体。
ビビドライガーは二体の敵の拳や蹴りをまるで踊るかのように避けながら、隙をうかがう。
フック、前げり、ボディ。
見える見える。
遅い遅い遅い!
一体がよろけた隙を見逃さず、中腰になると、相手の胴体を串刺しにした。
また、爆発。
爆発のなか、ユラリと立ち上がる深紅の戦士。
残った一体は、明らかに戦意を失っていた。
「大河、あと一体よ!」
「いや、あいつはちがう」
「え?」
「相手の戦意がない。おい、おまえ、さっさと失せな!」
ビビドライガーは腰に手をあて、上を指差した。
「そんなこと言ってる場合じゃ、」
渚が言い終わらないうちに、情けをかけられたことに激怒し、怒りにうち震えた敵が特攻を仕掛けてきた。
「バカが!死ぬことになるぜ?」
すれ違い様に、一閃!!
二体のロボットは静止した。
ドガァン!
敵のロボットが爆発した。
ビビドライガーは爪を納め一礼。
大河が悲しげに呟いた。
「バカは死ななきゃなおらないってな」
何なの?この子は
渚は考える。しかし、考えてもわかることではなかったので、やめた。
空に、一点、何かが見えた。
「迎えに来てくれたの!?」
「むかえ?」
「あたしたちのアジト!宇宙戦艦、スペースリンクス号よ!!」
でかい。
ビル二つぶんはあろうかという、巨大戦艦だ。
「はっ!決めポーズとらなきゃ!」
「い、いやよはずかしいっ」
「やるったらやる!」
戦士は、仁王立ちすると、太陽を指差し、叫んだ。
「勝利の凱歌を高らかに!鋼の意志よ鮮やかに!」
戦い終えた戦士を、太陽が優しく照らしてくれた。