201x年-東京-
4月上旬。午後2時の東京。
休日ということもあり、街には人がごった返している。若者たちが買い物を楽しみ、主婦たちは喫茶店でおしゃべりをし、老人たちは、家でゆっくりと過ごし、警官は交番であくびをしながら待機をし、路上でミュージシャンがギターをかき鳴らし、店では従業員が汗をかきながらも、労働の喜びを噛み締めている。平和な昼下がり。
しかし、突如として、街は悲鳴に溢れかえった。
空には、ビル二つぶんほどもある一隻の巨大な宇宙戦艦。禍々しき気をまとい、我が物顔でちんざしている。
突如あらわれては攻撃を繰り返す、神出鬼没の謎の組織、ムガール宇宙船団。今、地球はこのムガール宇宙船団の驚異にさらされていた。
戦艦から、10メートルほどの巨体を軋ませ、人型の無人兵器が飛び降りてくる。そのロボットはずんぐりとしていて首がない。ジャガイモや里芋に手足をつけ、巨大な拳をつけたような容姿をしている。人の鎖骨にあたるところには、スリットがあり、二つの瞳のようなカメラが怪しく光る。
ギシギシと笑うように不気味に軋みながら、人形は近くのビルを崩し始めた。
人々は、絶望し逃げ惑うのみ。
ギシギシギシ
それを見た、人形が笑う。
嗚呼、このままこの街は滅んでしまうのか!そのとき
「諦めるな!こんな時は叫ぶんだ!!呼べ!!俺の名を!!信じろ!!鋼の意志を!!」
高らかによくとおる声が響く。
人々に光が戻った。口々に呼ぶ。この窮地を救ってくれるであろう最後の希望の名を叫ぶ。
「ビビドライガー!」
人形が明らかに慌て出す。
敵が向かって来る。しかし、どこから?
それは上だった。太陽を背に、地面に垂直に飛び降りて来るものがある。
ズズン!
着地したのは、奇妙な出で立ちをしたロボットだった。しかし、怒りに震え、正義をつらぬく戦士であった。
血のような深紅のボディ。人々の期待や希望を一身に背負い、曲がってしまってもなお二本の足で立とうとする背中。助けを危機逃さない尖った耳。左手の甲には、磨きつづけた鋭いつめ。右手の甲には、まばゆい光を称えた丸いコア。頭に設置されており、怪しく光る瞳に見えるデュアルアイセンサーは、怒りの牙のようにも、涙のようにも見えるゴーグルに包まれている。
人形はグルリとその猫型兵器の回りを取り囲んだ。
ピンチだ、誰もが思った。しかし、
「ピンチだ、しかし、どんなピンチも"尾も白く"!!猫型兵器ビビドライガー!!」
すらりと腰に下げた刀を抜き、ビビドライガーが構える。
ジリ、
緊張が走る。
東京は灼熱に燃えていた。