第四章 夏と合宿とロックフェス 3 | きままに小説書いてるブログ

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She gave rock n roll to you という小説を書いています。
どん底な少年がロックとヒロインで救われていく話です。

物置の影で、かおちゃんの相談をうけて、嫌な予感は確信に変わった。
「テルくんってさあ、ジンくんのこと好き?」
「はあ?な、なんていった?」
「私さあ、好きなの。いてもたってもいられないくらい好きなの」
なんだこれ。なんだこのデジャブ。最悪だ。そんな風に見えてたのか。
ぼくはもう訳がわからなすぎて逆に冷静だった。一周回って現実感がわかない感じだ。
「あ、あの誤解があると思うんだけど、」
「ごまかさないでっ!スパッと言って!」
「ええ!?」
「どっちがタチなの!?」
大声を出されて、こちらもつられて声がでかくなる。
「すきじゃないよ!好きなわけないじゃん!」
まさかのホモ疑惑とは恐れ入る。なんだ?なんだこれは?新手のスタンド攻撃か?こういうプレイなの?
「そ、そうなの?よ、よかったあ」
ホッとしてる。ガチか?まさかガチだったのか?
「何でホッとしてるの?」
「いや、三角関係ってヤバイでしょ?一応バンド組んでるし」
「ぼくは悪いけどストレートだからっ」
「だって仲良く見えたから」
「仲良くてもあなた達姉妹は姉妹のままでしょう!?恋人にはならないでしょう!?それと一緒!」
「そうね、たしかにそうよね」
かおちゃんはホッとしたようにニコニコ微笑んでいる。ちょっとさっきのはショックだな。しかも、よりによってジンとぼくだなんて。
「てか、タチってなに?」
すると、かおちゃんは見る間に赤くなり、慌てだした。
「何でもない何でもない!忘れてっ」
冗談はこのへんにしといて、本題に入るとしようか。
「で?続けて続けて」
「あ、そうそう。彼、どんな子が好みとか話ししたりする?」
「好みかあー……」
好みも何もあなた達両思いなんだけどなあ。でも言わないほうがいーんだろな。ぼくはとぼけることにした。
「んー、わかんない」
「そ、そっか、じゃあわかり次第教えて」
「わかった」
「あ、あとこのこと彼にナイショね」
「そうだね。聞き出してみるよ」


僕らはみんなの元に戻ることにした。
別れて風呂へ向かう。風呂から上がり身支度をととのえたら、広間へ集合、とメールが来た。
先ほど布団を運び入れた、寝室に使う予定の大広間には、既にみんなそろっていた。
今日から数日、みんなで雑魚寝だ。
まこっさんのよくとおる声が響く。
「えー、これより!第一次スーパー枕投げ大戦の開催をたからかに宣言したいと思います!」
宣言することを宣言するとかバカすぎる。テンションがおかしい。でも楽しそうだな。わくわくする。
「あたしの合図をもって、各人は枕を武器に仁義なき血みどろのバトルロワイヤルを開始してくれい!」
「おぉー!」
一同気合いは十分だ。
まこっさんが枕を振りかぶる。
「ガンダムファイトォー!レディィィ、ゴォー!」
いきなりまこっさんの豪速球がブンサンに迫る!
ヒラッ
俊敏な動きでブンサンが身をかわす。
「当たらなければどうと言うことはない!」
「チイィ!化け物か!」
二人とも赤いあの人になりきっちゃっている。
みんなも本気だ。
枕が飛び交う。
倒れても倒れても、立ち上がり投げつける。
いつの間にか戦場は、ブンサン、かおちゃん、ジンvsまこっさん、僕、へーぞーさんの三対三になっていた。とりあえず、ぼくはまこっさんのサポートに回ろう。
「まこっさん、加勢します!」
「テルくんか、助かる!」
かおちゃんが怒鳴った。
「ばか野郎!新兵がでしゃばるな!」
まこっさんが言い返す。
「あたしの部下は精強ぞろいだぜえ!」
「揃いって僕は弾除けくらいしかつかえないですよ」
「……まあそうだな」
「隙を見せたな、小娘!」
ジンの枕がまこっさんの背中に迫る。
危ないっ!
とっさにかばった。しかし、肩に被弾してしまった。
お、おもてえー!石でも積めてんのかあの枕。
「よくもテルくんをー!」
「ばかめ!戦場に感情など持ち込むからだっ!」
「ジン!貴様!死んだんだぞ!!人がいっぱい死んだんだぞ!!」
「お前もその中に入れてやろうってんだよーっ!」
いや、死んでないよ?殺さないでよ、まこっさん。
夜は怒号と共にふけていく。



夜中、眠れなくて何度か起きた。なのでテラスで星でも眺めることにした。
先客がいるようだ。
あの抜群なスタイル、ふわふわそうな髪、かおちゃんだ。
「眠れないんだ?」
「うん、そうなの」
僕らは黙って星を見上げた。田舎だからか、星がやけにきれいで、吸い込まれそうで、なんだか泣きそうになった。
「あ、見て」
かおちゃんが指差したほうをみると、月明かりに照らされて波打ち際を歩く男女。まこっさんとジンだ。
きっとかおちゃんのことでも相談してるんだろ。あいつ、上手くかおちゃんのこと相談できるのかな?僕とかまこっさんより、彼女いるっていうへーぞーさんに聞くべきだろ。
「や、やっぱり、お姉ちゃんなんだ」
「え?」
「ジンくんはお姉ちゃんのこと……」
かおちゃんが泣き出してしまった。
い、いやちがうんだけど、これは言うべきじゃないんだろうな。ど、どうしよどうしよ。
「ううっ」
かおちゃんは泣きながらはしって行ってしまった。
二、三歩追いかけて振り向くと、ジンがこちらを見上げているような気がした。




次の日、朝イチでジンにテラスに呼び出された。
かなり怒っているようだ。基本的に温厚なジンがキレているだなんて、やはり昨日のかおちゃんのことかな。きっとそうだろう。
「どういう事だよっ」
「なにがよ」
「かおちゃんと二人きりで話してたじゃないかっ」
「話す位するだろ」
「なんかいいムードに見えた!テルくんの事俺は信用してた!でもてめえは信用を裏切ったっ!あげくのはてに泣かせたっ。何てひどいこと言ったんだっ!ええ!?返答によっちゃあ、俺たちは絶交だ!!」
こいつ完全に頭に来ちゃってる。話も聞いてくれないだろう。
しかも、本当の事は話してはいけない。
かおちゃんが、まこっさんとジンが付き合ってると思ってるとか、かおちゃんがジンの事が好きとか、そういう事は言ってはいけない。
言うのは簡単だ。しかし、二人の恋を僕が掻き回すことになってしまう。
しかも、もし説明しても信じないだろう。
だいたい二人がウジウジしてるから悪いんだろ。何で僕がおこられてるんだ?イライラするなあ。僕は案外怒りっぽいんだ。最近はバンドが楽しいから鳴りを潜めてきたけど、いつもいつもふがいない自分にイライラしていた。
今日は違う。こいつにイライラしている。
「もうやめてくれよ、こんな話」
「こんな話ってなんだよ」
「うるさいっ!僕が言うことはなんもないっ」
「なんだとぉっ!」
「ジンが関係ある話じゃあないって事だ」
「関係なくないっ」
このわからず屋!言えない事情があるってのに。
もう徹底的にやる。
「なんでよ?関係ないっしょっ。なんの関係があるんだよっ」
「俺は!あの子が!大好きだっ!」
あーもうこいつはホントに!
「だあったら、そいつを本人に言えーっ!こんなとこでキレてないで、本人にいってこい!慰めてこいっ!」
「お前が泣かしといて何いっとんだっ」
「僕は泣かしてないっ」
「はあ?」
「僕にじゃなくてかおちゃんにいってこい!このチキン!」
「もうがまんならないっ!」
胸ぐらを捕まれた。頭に登った血が一気に下がった。
ヤバイ、殴られるっ。
その時、
「ジンくんやめてっ」
かおちゃんがきた。後ろにはまこっさんが控えている。
あんな怒鳴ったら聞こえるか、さすがに。
かおちゃんは、泣きなら怒っている。
ジンが怒鳴った。
「かおちゃん、黙っててくれっ」
「なんで?なんでなの?何で殴るのよっ」
「なんでもなにもこいつがっ」
かおちゃんが来てもジンの勢いは収まらない。完全に頭に血が上っていて、話に筋が通ってない。
かおちゃんはかおちゃんで、泣きながらどんどん興奮がひどくなる。顔は真っ赤だ。
いつの間にか二人の喧嘩になっている。
二人は僕を間にはさんだまま、激しく口論を始めた。
ついに、ジンがしびれをきらした。
「かおちゃんには関係ないっ」
「この、わからず屋っ」
かおちゃんが平手を振りかぶる。
思わずジンが目をつぶる。
その時、ジンの頬に、
チュッ
かおちゃんが軽く触れるようなキスをした。
キス。英語だとKISS。大人っぽく言うと接吻。軽めだとチュー。
アメリカのド派手なハードロックバンドでも、魚の鱚でも、上中下の中でも、豆まきの節分でもない。キス。
「え?かおちゃん……?」
ジンがビックリして手を離す。
支えを失った僕は、ズルズルと床に座り込んでしまった。
かおちゃんがさらに真っ赤になりながら、しかし真剣な顔で言う。
「私、テルくんに泣かされてない!あなたがっ、あなたがお姉ちゃんと二人きりでいいムードだったからっ」
「え?」
「あなたのことが好きだからっ!だから、悲しくて、辛くて。私は、私はっ!」
こらえきれなくなったように、かおちゃんがジンに抱きついた。
「えぇ?」
「スタバのあの日からっ」
「スタバの?あの日?あっ!あの子って、ええ!かおちゃんだったの!?」
「今思い出しても遅いんだからっ」
そこで、二人は離れた。
二人は無言で向かいあっている。
「……かおちゃん」
「なに?」
「俺も不安だったんだ、昨日、テルくんと二人きりだったし、泣いていたから。でも、その不安は今、かおちゃんの言葉で消え去ったよ」
ジンが大きく深呼吸。
「好きだ。大好きだ。付き合って欲しい」
すると、かおちゃんは、ふっと笑って、
「言うのが遅いのよぅ」固く強い二人の抱擁。
僕は、何がなんだか、フリーズして動けなかった。
と、まこっさんが僕の手を引いて連れ出してくれた。
「ほっといてやろうな」
まこっさんにひかれながら振り向くと、二人はキスしていた。
ふたりともお幸せに。
こうして騒がしい朝は過ぎていった。