ミズナラの木にもたれたヒグマに兵吉は獣を向けた。
狙いを定める。
ドーン…
巨大ヒグマの体が一瞬のけぞりヒグマが兵吉を睨み付けた。
その瞬間、
ドーン
兵吉は二発目を撃ちはなった。
ヒグマは倒れ、絶命した。
余談だが、ヒグマは心臓を銃で撃たれても即死はしないそうだ…
実際、撃たれた直後に反撃しハンターを殺したヒグマもいるそうだ。
兵吉の一発目は心臓に、二発目は見事に眉間に入っていたそうだ。
銃の音を聞いて駆け付けた討伐隊は大喜びした。倒れたヒグマを殴り付ける者、泣き崩れる者、中にはヒグマの肛門に棒を突っ込む者もいたという。
不思議な言い伝えがある。
マタギがヒグマを仕留めると嵐が起こるという。
その日もヒグマを仕留めた直後から嵐が起こり、多大な損害が出た。最大風速は四十、五十メートルとも言われている。
人食いヒグマは三毛別に運ばれ解体された。
このヒグマの体内からはマユやタケの服の一部と、別の地域で食べられた女の肌着なども出てきた。
この遺品はアルコール漬けにし、保存したと言われているが、ヒグマの皮を含め現在は行方不明となっている。
結果的に、「太田マユ」、「蓮見幹雄」、「斉藤タケ」「斉藤厳」、「斉藤春義」、「明景金蔵」とタケのお腹にいた胎児が犠牲となった。
また、母親に背負われた状態で頭を噛まれた「明景梅吉」はこの傷が原因で約三年後亡くなっている…
その後、一度は村に戻った開拓民は一人、二人と村を出ていき、村にはわずかな人しか残らなかった。
一頭のヒグマが起こした事件が村を消滅させたのだ。
この事件は作家吉村昭によって「羆嵐」という小説になった。
また、木村盛武は事件を細かく調査し、「慟哭の谷」という本になっている。